プチ小説「青春の光42」

「は、橋本さん、船場さんの小説「こんにちは、ディケンズ先生」のためのあっと言わせるような宣伝を考えていただきましたか」
「ああ、考えたさ。ただ...」
「ただ、何でしょうか」
「このまえ、田中君は「何でもあり」と言っていたが、どんなことを言っているのかなと思って」
「まあ一般的にはどんなことをしてもよいと言うことですが、橋本さんの場合、いろんなパーフォーマンスをされて来ました。
 ぼくは当初、大きな提灯と小さな提灯に宣伝文句を書いて橋本さんと二人で大阪梅田の人通りの多いところに行き、声を嗄らせて
 船場弘章著「こんにちは、ディケンズ先生」をお願いしますと言っていたのは懐かしい思い出です」
「おいおい、昔を懐かしむようになっては進歩がないぞ。もっと前を見ないと」
「でも、橋本さんを金粉やメリケン粉で装飾して人通りの多いところで演説してもらったりだとか、橋本さんをクレーン車で逆さに
 吊るして、大看板の横で腹筋をしていただくというのは、警察から許可がおりないでしょうし」
「そ、それもそうだな」
「おりこみ川柳、あいうえお作文、替え歌なんかも作りましたが、なかなか発表する場がないので、いまいち効果が出ていません。
 要は今まで通り、地道にやっていくしかありません。前にも言ったようにこの小説が、「青春の光75」まで行ったら、単行本として
 出版できるだけのボリュームになりますから、出版したら、多くの方の目に触れるかもしれません」
「どうも、田中君は悲観的なことばかりを言っている。前回、何でもありと明るく言っていたのとえらい違いだな」
「でも、何か目新しいものでもあるのですか」
「もちろんだ。ゲストを呼んでいる。ただ、すんなりここに来てもらったんでは面白くないので、趣向を凝らすことにした。ちょっと
 そこまで一緒に来てくれないか」
「なるほど駐車場の片すみに障子を立てて、後ろから大型の懐中電灯で照らしていますね。これはもしかしたら」
「そうなんだ。私が小さい頃、日曜日の夜の楽しみだった、アップダウンクイズの中のシルエットクイズをしようと思うのだが...」
「何か問題があるというのですか」
「そ、それは、そのゲストというのがVIPなので、ゴミ捨て場の近くでお昼休みに登場してもらうよりも仕事が終わってから、警備室の
 前の明りを暗くして出演してもらおうと思うのだ。ゲストの方にも午後6時頃に警備室に来てもらうよう言ってある」
「わかりました。それじゃー、ぼくはそれまでに仕事を済ませておきます」

「やあ、なかなかいいセットができましたね。この後ろにゲストの方がおられるのですね」
「もちろんそうだ。わたしは当時、小池清さんや佐々木美絵さんが何を言っていたか憶えていない。ただこういうふうに後ろから
 明りを照らして、3つのヒントを読み上げたと思うんだ」
「いいえ、確かシルエットだけでわかる人がいないか訊いていなかったかな。それから最後のヒントを読み上げる前に横から光を
 当てて...」
「そうか、じゃあそのようにしよう。田中君はシルエットだけでわかったかな。これでわかるとゴンドラが3つ上がるぞ」
「うーん、どうも頭のシルエットは瀬戸わんやさんのようですが、服がどうも違うようですね。モーニングのような上衣を着ていて、
 下はズボンでなく、バレエダンサーが履くタイツのようなものを履いている。あっ、ちょっと横を向かれたので、眼鏡をかけて
 おられるのがわかりました。でも誰だかわかりません」
「シルエットだけではわからないようだから、第1のヒントをあげよう。わたしはディケンズの小説の登場人物です」
「うーん、誰かなー、とりあえず、スクルージ」
「ブー、じゃあ、さっそく第2のヒントだ。わたしには4人の部下がいて彼らとイギリス国内の漫遊旅行を始めるというのが、
 この小説の始まりのところです」
「4人の部下ですか、フェイギンにはたくさんの手下がいるので、とりあえず、フェイギン」
「ブー、不正解。では、ゲストの方、横を向いてください」
「ああ、わかりました。真ん丸眼鏡と突出したお腹を見れば、誰でもわかりますよ。ピクウィック氏ですね」
「正解。じゃあ、ピクウィックさん、どうぞこちらに来てください」
「は、橋本さん、確かに何でもありといいましたが、ここまでされるとは思いませんでした」
「なに、これが小説のいいところさ、でも、せっかく来ていただいたんだから、粗相のないようにしないといけないよ。
 ピクウィックさん、ようこそお越しいただきました。わたしどものところにやって来ていただけるなんて、思いませんでした」
「いやいや、君たちが頑張っているのは、わたしの生みの親もよく知っている。最近、ふたりで苦戦しているようだから、
 助けてやってくれと言われたので、渡りに船とここに来させてもらったんだ」
「なるほど」