プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 忘年会の秘策編」
わしは前にも言ったけど、忘年会では人気者や。手品は玄人はだしと言われとる。ハトを出したり、ヘビを出したり
するんで、そら、えらい騒ぎになるんや。それからもういっこ、わしには得意な演芸があるんやけど、あんたわかるか。
どや。そうか、わからんか。それはやな、一人二役で男女のデュエット曲が歌えるということなんやが、最近は男女の
デュエット曲ちゅーのが流行らなくなったんか、新曲が出んようになった。わしとしては新曲で得意の演芸が
でけへんので、最近はやりにくうなっとる。そやけどそろそろ忘年会で何するか考えんといかん。昨日の晩、寝んと
考えたんやが、この裏声をなんか別の演芸で活かす方法がないかいなと。そこで思いついたのが、女の声音で独身男性を
おちょくるということなんやが、わしの裏声がどの程度、通用するもんなんか今から試してみよかなーと思うとる。
今日は船場は家にいとるちゅーとったから、今から電話したろかいな。るるるるる、るるるるる、るるるるる、あれ出ーへんな、
留守かいな。るる、ぷちっ、ぷー、ぷー、ぷー。あれ、切れよった。もう一回やってみよ。るるるるる、るるるるる、
「はい、船場です」「あーら、船場さん、お久しぶり。連絡いつまでももらえないから、私から、掛けて
みようかなーと思ったの」「そ、そうですか。いやー、ごめん、ごめん」「本当に、船場さんたら、冷たいんだから」
「いやー、仕事が忙しくて、掛けられなかったんだ。でも、今度の日曜日なら大丈夫だよ」「あーら、私もそうなの。
じゃあ、どこか連れていってくださる」「もちろんだとも、君となら、地獄の底までだってついて行くよ」
(傍白)「もうちょっと、考えてものを言わんと嫌われるでー」「どうしたんですか」「あら船場さん、私、地獄に行くことは
あまりないと思いますわ」「ははは、そうでしたね。じゃあ、君となら北極のシロクマにだって会いに行くよ」
(傍白)「こいつ、おれをおちょくっとるんか。おいっ、おっといかん。ここは冷静に行かんと」「おや、今、おいっ、
とか近くで言った人がいますね。それはおとうさんかな」「いーえ、私はいまひとりよ。それより、こんどの日曜日、どこか
行きません?最近、暑いでしょ、だから、私、プールなんか行きたいな」「うーん、ぼくは20年近くプールに行ったことが
ないんで、他のところがいいですね。そうだ、王子動物園なんてどうです」「暑いのに動物園なの。それって、どーしてなの」
「王子動物園の中にシロクマの檻があって、暑い時期にはシロクマにプレゼントと言って、氷柱を投げ込むんです。
これを傍で見ていると涼を呼ぶし、微笑ましいんですよ」「でも、私はもっと直接冷たさがしみ込むのがいいな」
「そうですか。そうだ、それなら比叡山の山頂遊園地のお化け屋敷がいいかもしれない。あそこは怖いと言うより楽しませるお化け
だから、安心して行けますよ」(傍白)「あそこは確か2000年に閉園になったはずやが...」「どうかしましたか」
「そうね、それもいいかもしれないわね。きゃーと言って私が船場さんに抱きついたら、船場さんきっと喜ぶでしょうね。でも...
それより、船場さん、私をデラックスな、リッチな気持にさせてくれないかしら」「わかりました。それなら、こうしましょう。
コンサートでモーツァルトかショパンを聴いて、それからどこかの一流ホテルで」「一流ホテルで...」「フランス料理でも食べましょう」
「そんなお金お前あるんか、えーかげんなことを...あーら、ごめんなさい。わたし、ちょっと品のないこと言っちゃった」
「にいさん、最初からわかっていますから。でも、なかなか上手だったですよ」「そうか、女性に恵まれない船場には、一服の
清涼剤になったかな」「まあ、冗談はそれくらいにしてださい」「わしはいつも真剣やで。ところで、船場、忘年会のええネタお前
知っとらへんか」「まさか、にいさんの発想を越える人は誰もいませんよ」「そうやろ、今のんかって、エエ線行っとったやろ」
「いや、スリリングな駆け引きがないからだめですね」「さっきはなかなかよかったとゆうとって、こんどはだめとはそら
どういうこっちゃねん」「うげーっ、な、何で電話なのに...。胸ぐら掴んで、そんなに強くゆすったら、く、く、くるしい
じゃないですか」「そうか、ほんなら、これで行くわ」「ははははははははははははははははははははははははははははははは
ははははは、今度は脇の下をくすぐったりして、だ、だめですよ。はははははははははははははははははははははは、ぼくは脇の下は、
だ、だめですよ」「そうや、閃いたでー、これを忘年会でするというのはどうや。題して笑う門には福来る。船場も今年のしんど
かったことつらかったことを笑い飛ばすんや」「わ、わかりましたから、だからくすぐるのはやめてください。小学生じゃあるまいし、
40代を過ぎたふたりのおっさんがじゃれあっているのは、悲しい光景じゃないですか」「そうか、わしは微笑ましい、残したい
日本の文化遺産やと思うけどな」「うーんんんんんんんんんんんんんんん、そ、そうかもしれませんね。ははははは」