プチ小説「いちびりのおっさんのプチ話 炬燵といつまでも編」
今年の夏は暑かった。そやからとうぜん暖冬やと思っとったんやが、えらい寒い日が続いとる。わしは暑いのも苦手やけど、
寒いのはもっとあかんのや。ちいこい時から、炬燵しか使わんかったから、今もストーブはよう使わん。もちろんわしら
みたいな貧乏人は、エアコンなんちゅーえーもんは高うて手が出えへん。そやから、重ね着をして炬燵に入って、寝る時は
そのまま布団をかぶって寝るんやけど、これやとトイレに行ったり、自炊する時にさぶーてしゃあない。相談に乗って
もらおうと思うて、船場に来てもうたんやけど、あいつどこ行きよったんやろ。おーい、船場、どこ行ったんやちゅーたら、
ここ、ここ、にいさん、ここしかないでしょうと炬燵の中から、声が聞こえた。炬燵布団をめくりあげたら、船場が冬眠してる
熊みたいな格好で、寛いどった。わしは、お前、主のわしを差し置いてそんなことしてええと思っとるんか。わしがでっかい
図体で炬燵にもぐり込まれへんの知ってて、そんなことするんやろ。許せんちゅーて、炬燵を強にしたら、熱ー言うて、
飛び出して来よった。わしは早速、船場に、この冬さぶい思いをせんで過ごすためにはどうすればええか尋ねてみた。ほしたら船場は、
それじゃー、にいさんは多少の犠牲は我慢しはるんですねと言いよった。それでわしは、そらしゃーないんとちゃうちゅーたった。
船場は、そしたらぼくが2つの案を言いますから、にいさんはどちらにするか決めてください。いいですか、多少の犠牲は
しゃーないと言わはったから、アグレッシブな提案をするんですと言いよった。わしが、ごちゃごちゃ言わんとはよ言えちゅーて、
頬っぺたを抓ったったら、涙目で話しだしよった。船場は、それは炬燵を改造することです。そのまま背中に背負ったり、
抱きかかえることができれば一番よいのですが、そういうわけには行きません。ガメラのようなシルエットになりますが、炬燵をそのまま
背負って生活できるなら、誰もがそうするでしょう。そこで改造するのですが、ひとつは竹細工でにいさんの背中をすっぽりと覆う
ドームを作り、その上に布団をかぶせるのです。もちろんその中に取り外した赤外線ランプを背負ってください。どちらも固定が難しい
かと思いますが、ぼくはこういうのが得意なのでまかせてください。それともうひとつは、炬燵の足を取り外して炬燵を立て、
キャスターを付けて、移動しやすくするという方法ですが、これだと熱が籠らないので暖かさがいまいちです。さあ、どちらに
なさいますと言いよった。わしは竹籤でドームを作り始めた船場を制止する訳に行かず、自分で炬燵から赤外線ランプを外して
背中に括り付けた。2時間ほどして船場はドームを拵えよったが、重い炬燵布団を乗せると拉げるので、緑の緞帳を掛けることにした。
コンセントにプラグを差し込んで、スイッチを入れたら、うーーーーん、これはいける。快適にこの冬を過ごせると思うたんや。
そやけど、このふたりの英知を結集した暖房器具は着脱がしにくい。船場は、あまり着脱を繰り返すとドームの部分が劣化するので、
一日一度の着脱にしてくださいと言いよった。船場は帰りよったけど、今、大事なことに気がついた。明日は古紙の回収の日なんで、
溜まりに溜まった新聞を出さなあかんのや。わしの家はワンルームやから、あと2週間も溜めたら、足の踏み場もなくなってしもうて、
トイレのドアも開けられへんようになる。それで、炬燵を背負ったまま、ゴミ置き場まで行くことにしたんや。暗くなってからと思うたが、
誰もおらへんやろしこっそり行ったらだいじょーぶと思うたんやが、それがそうは行かんかったんや。2回目にゴミ置き場に行った時に、
ひとりの子供が、わーい、おじさん、ガメラみたいだね。ぼくにも背負わせてと追いかけてきよった。運の悪いことに家に上がる階段
から人が降りて来たので、仕方なく自分の階段の前を通り過ぎて隣のアパートに回ることになった。もちろんそこにも子供がようけおって、
ガメラ、ガメラと言って、わしのあとを追いかけてきよった。3周アパートを回る頃には、30人近くの人がわしを追いかけてきよったが、
その中に船場の姿が見えたんで、わしが、静かに余生を過ごそうと考えてたのに、これではまた脚光を浴びてしまうやないかちゅーたったら、
船場は、にいさんはこれからの人です。人気もこんなにあるじゃないですかちゅーたから、なに言うてんねん。こんな格好して、まともな
人と思ってもらえるほど世の中はあもないんじゃ。おっかけしとるのはおもろいからだけなんやちゅーて、頭突きをかましたった。