プチ小説「青春の光47」

「は、橋本さん、心配事があるんですが...」
「言わなくてもわかるさ、女性運がなくて、今年もクリスマス・イヴをひとりで過ごしたんだろ」
「それは事実ですが、それではないんです」
「じゃあ、女性運が見込めなくて、来年のクリスマスもひとりだろうと」
「それも十分予測できますが、なぜそんなにぼくのパートナーことを気にしてくださるのですか」
「そ、それはだな...。やはり、恥ずかしいから、やめておこう」
「そんなー、一度言いかけたことは、男らしくはっきり言ってください」
「よーし、そんなら言ってやろう。わたしみたいに...」
「わたしみたいに...」
「しじゅうを過ぎて、発情したんでは遅すぎるからだ。若い頃にノーマルな恋愛をするのが
 一番だからだ 」
「......。それもそうですが、ぼくが考えていることと少し違うようです。実は船場さんのことなんですが...」
「それは心配いらないよ。彼は疾うに諦観の境地に入っているから、他のことで人生を楽しんでいるんだし」
「女性のことはそうかもしれませんが、小説のことですよ。船場さんの生き甲斐というか」
「確かに田中君が言う通りだ。彼は、この小説に人生を賭けていることは確かだ」
「そうだと思うのですがどうも...」
「どうしたんだい。何か問題があるのかい」
「ええ、逆境にめげずに船場さんは頑張ってこられましたが、このあと何ができるのかと...」
「うーん、そう言えば、大学図書館への受け入れ依頼も公立図書館廻りも主立ったところは
 済んだといっていたなあ。ディケンズ・フェロウシップの秋季総会で発表をさせてもらったが、
 センセーショナルな話題を呼べなかったし、本の売れ行きはさっぱりだったと聞くし」
「そういうことです。われわれはPR隊として力の続く限り頑張ろうと思いますが、このような
 状況では、如何ともし難いのではと思います」
「まあ、心配するな。わたしがまたアイデアを考えだすから」
「きっと面白いことを言われるんでしょう。例えば、どんなのがありますか」
「わたしはしばしば羽目を外すが、いつもはふつうのサラリーマンさ。だからわたしがやることは
 常識の範囲内だ。これ、このように」
「そうですよね、片腕や両手の親指と人差し指で腕足せ伏せをしたって、珍しくはありませんね」
「そのとおりだ。でも、船場君の本を売り出すにはその珍しくないことをやっても報われないだろう」
「じゃあ、なにをすればいいんですか。橋本さんの力でどうしようもないと言われるのでしたら」
「そうだなー、手っ取り早いのは助っ人ということになるだろうなぁ。ディケンズの小説の登場人物に
 協力していただくというのは。 ピクウィック氏も今日は用事があると言っていたけど、次回は頼めば
  来てくれるだろう」
「それは面白いですね。ぼくは、『クリスマス・キャロル』の改心する前のスクルージや
  『デイヴィッド・コパフィールド』の悪役ヒープとの対決なんかも面白いかなと思うんですが...」
「でも彼らは一筋縄ではいかない人物だから、ピクウィック氏のような爽やかな印象を残さないかも
 しれない。かえって彼らの悪い印象が表に出るとマイナスになるかもしれない」
「われわれ二人が組めば大丈夫ですよ。それに彼らの強い個性は強烈な光をはなつと思いますよ」
「そうかい。じゃあ、次回はユライヤ・ヒープに来てもらうことにしよう。ピクウィック氏も声を
 かけておくよ 」