プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生256」
小川は久しぶりに休日の日の朝に時間が取れたので、いつもの喫茶店に来ていた。『ニコラス・ニクルビー』を読んだ後に、
相川から来た手紙を読んで返事を書くことにしていた。小川は着いてすぐにハードカバーと手紙をテーブルに並べたが、
なかなか小説を読み始められないでいた。
<正直に言うと、相川さんが書かれた手紙と小説の続きを先に読みたい。でも、時間を有効に使わないといけない。この前の
ディケンズ先生の話だと、「
アユミさんと究極の戦いをすることになる。その際、今読んでいる、『ニコラス・ニクルビー』の
主人公の言動が参考になると思うから、是非、参考にしたまえ」と言われていたが、究極の戦いというのはどういうことだろう。
メキシコでプロレスのことをルチャ・リブレ(極限までの死闘)というから、もしかしたらぼくはアユミさんの出身大学の
プロレス研究会のリングの上でアユミさんと闘うことになるのかもしれない。そんなことを考えていたら、心配で心配で...。
でも朝早く起きたからか、眠たくなってきた >
霧が晴れてディケンズ先生が現れると、小川は尋ねた。
「先生がこの前に、アユミさんと究極の戦いをすると言われたので、どうなるのか心配なんです。ぼくは毎日トレーニングを
しないといけないのでしょうか」
「ははは、そう言うだろうと思ったよ。でも、そうではないんだよ」
「でも、闘いなんでしょ。だったら、やはり腹筋でもしないと」
「いや、違うよ。第一、小川君がアユミさんと闘って勝つ可能性が少しでもあると思うかね」
「いいえ、でもそれじゃあ、どんな闘いなんですか」
「これを言ってしまうと面白みが半減するのだが、きっとこれから先も私に助言を求めるだろうから、少しだけ話して
あげよう。それは桃香ちゃんのこれからのことだ」
「それなら、この前、ベンジャミンさんが面倒を見てくれると言われてました。それから大川さんとアユミさんが
名古屋に行かれるので、桃香の相談相手になってくれると言ってました」
「で、小川君はどちらにつくのかな」
「えーーーーっ、てことはふたりが桃香を奪い合いをすることになるんですか」
「簡単に言うとそういうことだ。最初は水面下でやり合うので周りは気づかない。でもある時に...」
「だいたいわかりましたが、でもなぜピアニストのアユミさんがヴァイオリニスト志望の桃香に干渉するのか...」
「まあ、そのうちわかるから、これくらいにしておくさ。もやもやした気持も少しは晴れただろうから、さあ起きた起きた」
小川は目を開いて、起き直ると『ニコラス・ニクルビー』の最初の4章を一気に読み終えた。
小川は周囲に客がいないのを確かめて、独り言を言い始めた。
<でも、この話のどんなところを参考にすればいいんだろう。主人公ニコラスの伯父さんのラルフは典型的な悪人だが、
父親を亡くした母子3人は他に頼る人がなく、藁をもすがる気で訪問したようだ。結局、叔父が母と娘の面倒は見ることに
なるが、ニコラスは遠く離れたヨークシャーの学校で働くことになる。その学校の校長が
叔父に輪をかけたような極悪人...。
多分、この悪人どもがやっつけられて、溜飲が下がるというパターンの小説の気もするが...。先生がこの小説を参考に
するようにと言われているのだから、じっくり読ませてもらおう。きっと時々夢に現れて、ほのめかしもしてくださる
ことだろう。じゃあ、今度は相川さんからの手紙を読むことにしよう。どれどれ」