プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 春へのあこがれ編」

わしはいつでも陽気で羽目を外してばかりなんやが、特に春は開放的な気分になってな、えーかげんにしときーちゅわれるまで
うけを狙ってあほなことをするんや。宴会場が畳敷きやったら、酔った勢いで、若いもんにプロレスの技をいろいろかけたもんや。
新入生歓迎会の時は新入生に、コブラツイストや4の字固めなんかの簡単な技だけやのうて、卍固め、ボーアンドアロー、スモール
パッケージホールドなんかもリクエストに応じてかけたもんや。ある時、みんなからのリクエストでシュワルツネッガーのような
筋肉の新人に逆エビ固めを掛けたったら、返されて一回転しておしりから落っこちたこともあった。今はそんな宴会芸で盛り上がる
新人歓迎会がのおなってわしらのようにお調子者にはすこしさみしい気がしとる。静かに酒を飲んで話したことはインパクトが弱いから、
10年も経ったら忘れるやろけど、20年前にわしが逆エビ固めを返されたのは、今でもふと思い出すとよく言われるんや。なにごとも
節度は守らなあかんし、いやがる新人に無理強いするのはよおないが、多少の羽目を外さんと宴会ちゅーのは盛り上がらんような
気がする。そういうわけでな、わしは最近は酒以外で高揚した気分になるのを楽しんどる。それはもちろん桜の花を見ることなんや。
今日は船場と一緒に京都の桜の名所を訪ねることになっとるんやが、普通の格好やったらおもろないから、奇抜な格好で来てくれと言うとる。
わしは首から下はサンタさんの格好をしてちょんまげのカツラをかぶっとるんやが、船場はどんな格好を...。船場、おまえ、なんちゅー
格好しとるねんちゅーたったら、船場は、にいさん、これはディケンズの小説の主人公、ピクウィック氏です。彼のトレードマークの
禿頭に突出したお腹、レンズが丸いめがねにぴっちりしたタイツのような白いズボンを真似してみたんです。お腹には中華鍋が入って
いるんですと言いよった。わしが、ほんなら、船場、嵐山か円山公園かどっちに行くちゅーたったら、船場は、にいさん、そらちゃいまっせ。
お花見ゆうたら、仁和寺、醍醐寺、祇園白川、平野神社、哲学の道なんかでっせと言いよった。わしは、ほんなら嵐山にしよ。あそこやったら
プロレスごっこができるし。ええか、今日は久しぶりにプロレスごっこをするんやちゅーたった。四条河原町のマルイの前で待ち合わせてから、
阪急電車で嵐山に行ったんやが、わしらふたりともかぶり物を脱いで、隅の席で静かにしとったんで怪しい人とは思われなんだ。わしは
久しぶりに、ブレーンバスター、ダブルアームスープレックス、アルゼンチンバックブリーカー、アトミックドロップ、ヤシの実割り、
ドロップキック、ジャーマンスープレックスホールド、パイルドライバー、フライングクロスチョップ、地獄突きなどの大技を掛けれると
喜んどったんやが、突然、大雨が降り出して、プロレスごっこがでけんようになってしもうた。わしは船場に、このまま帰ったんでは、
欲求不満が暴発する。なんかおもろいこと考えろちゅーたった、ほしたら船場は、にいさん、ええこと考えました。この中華鍋と禿頭の
カツラでおもろいことができます。カツラの表面にこのメリケン粉をたっぷりつけてっと、にいさん、このカツラをかぶって中華鍋の
上で、ブレイクダンスのようにクルクル回ったら、そら受けまっせと言いよった。わしは、おまえがそんなん言うんやったら、先に
見本を示せ言うたった。船場が、伏せた鍋のてっぺんで1分間ほど器用にクルクル回りよったんで、わしは後に引けんようになってしもうた。
わしが躊躇しとったら、子供が3人やってきて、ははは、おじさん、こんな簡単なことができないのちゅーて、3人一緒に中華鍋の上で
クルクル回りよった。いくらなんでもそんなことはでけへんやろう言うやろけど、ホンマにやりよったんやからしゃーないがな。
ほいでな、わしも30分ほどやってみたんやが、あかんかった。子供は馬鹿にしよるし、船場は腕を組んでニタニタしとるし、わしは
だんだん腹が立ってきてな。おまえら、こんなことでけへんやろ言うてな、中華鍋の横でクルクル回ったったら、周りにおった
100人ほどの老若男女が、わしらもできるでえちゅーてな一斉に時計回りにクルクル回りよったんや。