プチ小説「青春の光51」
「は、橋本さん、いよいよ、漫才の日がやってきましたね」
「そうなんだ。......。それでは、紀伊国屋までいくことにするか」
「ちょっと待ってください。警察から許可が下りなかったのでは...。わかりました。それじゃー、われわれだけでやりましょう。
そういうことですから、今からする漫才と言うのは観客がいませんので、お金になりません。ですので、ヒープさん、お帰り
いただいてもいいですよ」
「安心してください、田中さん。彼には、今日の漫才を一緒にすることは、ビバリーヒルズに大邸宅を建てることに
繋がると言っておきました」
「ピクウィックさん、そ、そんなことを言っていいんですか」
「ええ、いいんです。だって、それがかなうのがいつとは言っていないんですから」
「おい、おまえら、何をこそこそ言っているんだ。一体、漫才はいつ始めるんだ。おれはこののこぎりでロンドンデリー・
エアを演奏するんだからな」
「ユライヤもああ言っているんだ。始めるとしよう」
「いいえ、その前にわれわれのグループ名を決めましょう。名前があると結束力が高まりますし。橋本さんどうですか」
「そうだなー、横山ホットブラザースをもじって、橋本ホットケーキズというのはどうだい」
「最近、パンケーキに凝っているからなんでしょうが、安直ですね」
「じゃあ、見てくれをそのままグループ名にしてはどうかな。陽気な金粉おじさんと仲間たちとか。わたしは準備があるから、
それができたら、始めよう」
「......」
「わー、ま、まさか、金粉を塗ってくるとは」
「今日はね。目出たいから、何をやってもええんよ。最初は紅白の横断幕をイメージしてメリケン粉と桜えびでストライプを
作ろうと思ったんやがうまくいかへんかった。まあ目出たいゆーたら、金がええやろ思うてこれにしたんや。オリンピックでも
金メダルちゅーたら、最高の名誉やからね」
「
金粉を塗った人がそんなことを言うても説得力ないけどねー。ところであんた、目出たいちゅーてたけど何が目出たいんや」
「それはなあ、この曲と関係があるんや」
「(アコーデオンによる演奏が終わった後で)......。おお、これは、レハールの喜歌劇「メリー・ウイドゥ」のヴィリアの歌やないか」
「船場君は、6月に開催予定のLPレコードコンサートでは、この曲が出てくるレハールの喜歌劇「メリー・ウイドゥ」と
J.シュトラウスⅡの「こうもり」を予定している。船場君は最近知り合った方から、LPレコードコンサートであなたの
クラリネットを聴きたいと言われたので、この曲を練習してLPレコードコンサートの中で演奏しようと目論んでいるようだ」
「ようわからんけど、あんた、それいつもと同じ口調やで」
「まあまあ、固いこと言わんと...。つまり船場君はクラリネットを人前で吹くくらい、厚かましくなった。いや、そうじゃない、
恥知らずになった。いや、そうじゃない。マシな演奏ができるようになったということなんだ」
「おい、おまえたちは、おれをからかうためにここに呼んだのかい。もうなにがなんだかわからないよ 」
「ややや、ヒープはん、あんた、のこぎりやないの、それどうするの」
「おまえら、ロンドンデリー・エアをひけと言わんかったか。こんな感じで...」
「おおー、あんた器用やな」
「じゃあ、わたしが、アコーデオンで伴奏をつけましょう」
「ぱちぱちぱち。うーん、こういうのもええねえ。のこぎりがこんなに心に染みる音を奏でるなんて」
「そら、あんた食わず嫌いはあかんよ。B級グルメの中にもおいしいものはぎょうさんあるんやからね」
「ちょっとちゃうと思うけど。ところであんた、もう少し言いたいことがあるんとちゃう」
「おい、おまえたちは、おれをからかうためにここに呼んだのかい。どうせなら、もう一回やらせろ」
「あんたとちゃうがな。えらい、のこぎりが気に入っとるようやが、わしは金粉のおじさんに訊いとるんや」
「わしが言いたいのは、わしらが出とるこのプチ小説のように、船場君は第49回を迎えるLPレコードコンサートも
ディケンズ・フェロウシップの会員のみなさんとのおつき合いもクラリネット演奏も楽しんどる。だから...」
「だから、どうなんや」
「だから、しばらくは船場君は、生活を楽しみながら地道な活動を続けるんじゃないかな。同時に小説も量産して行くだろう。
問題は最後に笑えるかだが、それは天のみぞ知るというところだろう。船場君が余りに冷静だから、その足りない
分を補うために、われわれはせいぜい羽目を外して読者の皆さんに喜んでいただかなければならない」
「橋本さんがおっしゃることがよくわかりました。いまのところ船場さんの喜びは、日々の生活の中でということ
ですね。では、ピクウィックさん、ヒープさん、これからもよろしくお願いします」
「おい、おまえたちは、おれをからかうためにここに呼んだのかい。もうなにがなんだかわからないよ」
「そうそう、そんな感じでお願いします」