プチ小説「青春の光52」
「は、橋本さん、桜の季節も過ぎ、若葉の季節に入ったと言うのに相変わらず船場さんの『こんにちは、ディケンズ先生』は
売れていないようですね」
「そうなんだ、89の大学図書館と147の公立図書館に受け入れてもらっているのに、売り上げには繋がっていないようだ」
「われわれも活躍の場を与えていただいているので、それにめげることなくまだまだ頑張るつもりですが、何か新しいことに
挑戦してみたい気もします」
「ほう、例えばどんなことがあるのかな。なんなら、私の金粉を貸してあげようか」
「いいえ、まだぼくには自制心が残っていますから、お笑いのためにすべてを投げ出す覚悟はできていません」
「なにもそんなに片意地張らなくても、金粉を塗っている自分をどんな顔で見ているか、たいていは幸せな顔をしているのだが、
その反応を見るのは楽しいもんだよ」
「橋本さんが上半身に金粉を塗って瞬きせずにいると、誰だって愉快な気分になると思います。ですが、ぼくにはそれができません。
ぼくは違ったことをしたいんです」
「じゃあ、メリケン粉は」
「いえ、それは同じものです」
「じゃあ、青のりは」
「あまり、かわりません」
「そうか、それでも私たちは今までいろんなことをやってはいるよ。替え歌もしたし、漫才もしたし、テレビ番組のパロディーもしたし、
笑点の大喜利のネタもしたし...」
「そう言えば、最近は文豪ディケンズの小説の登場人物にも出ていただきました」
「うんうんうん。うんうんうん」
「どうしたんですか。お腹の調子がよくないんですか」
「いや、いいことを思いついたんだ。最近流行のゆるキャラを宣伝に使うというのを」
「なるほど、それなら僕が恥ずかしいことをしないですみますね。それに橋本さんもゆるキャラの相手をしないといけないので、
無茶をしなくてすみますね」
「よし決まった。じゃあ、次回までにいくつかのゆるキャラを考えようじゃないか。ゆるキャラの名前、どんな着ぐるみなのか、
キャンペーンの内容をキャラクターごとに考えるというのはどうかな」
「面白そうですね。で、いくつくらい考えたらいいですか」
「それは任せるが、必ず、さっきの3つのことは考えておいてほしい」
「もちろん、『こんにちは、ディケンズ先生』の宣伝に使えるのがいいですよね」
「いやいや、全然、関係なくても愉快なキャラクターだったらなんでもいいんだ。要は、このコーナーを引き立ててくれさえすれば
いいんだよ
」
「わかりました。僕が身につけることになるのでしょうから、寝るのも惜しんで考えますよ」