プチ小説「青春の光53」

「は、橋本さん、着ぐるみの案を出す締め切りの日が来ましたが、進捗状況はどうですか」
「やあ、田中君、君の方こそどうなんだい」
「1つだけ考えましたが、それを発表する前に言い訳をさせてほしいのです」
「言い訳、そりゃー、すんなりできるとは思っていないから、安心しなさい。むしろ短期間でできた
  というのは称賛に値すると思うのだが、どうしてそんなことを言うんだい」
「実は、いわゆる頭にかぶる、ハリボテのかぶり物がうまくできなかったんです。それからぼくは
 小学生の頃から、裁縫が苦手で首から下の部分も作れなかったんです」
「それじゃー、なにもできなかったということなのかな」
「いいえ、バイク用のヘルメットか工事現場で使う黄色いヘルメットをデコレーションして
 代用しようと思ったんですが、これもお金がかかるということでやめました」
「じゃあ、下はどうするんだい」
「着ぐるみに肌触りが近いんじゃないかと思って、らくだのシャツとパッチを近くの商店街で購入しました。
 そうだ、その店のおじさんがおまけに真っ赤な腹巻きを付けてくれたので、目出し帽のようにして
 使えるかもしれません」
「で、どんな名前をつけて、どんなキャンペーンを展開するつもりなんだい」
「そうだなー、なんとかハリボテで燃え盛る炎をイメージしたがぶりものを作成し、赤い腹巻きを目出し帽のように
 被って 前後に広告の看板をぶら下げる。燃えるサンドイッチマンというのはどうでしょうか。
  これだといろんな宣伝方法が期待できます 」
「うーん、それはいまいちだし、きっともう誰かがやっているような気がするな。誰もが真似できないような。
 すごいのを考えないと、船場君はいつまでたっても浮かばれないよ」
「そうですね。ところで、そうおっしゃる橋本さんはもっとすごいゆるキャラを考えたのですね。出し惜しみしないで
 早くここで披露してくださいよ。そうだ先にゆるキャラの名前を聞いておいてもいいですか」
「な、名前はあとからにしてくれないか。きっと一目見て名前はわかるだろうから」
「え、そうなんですか。一目見てわかるとすると、それは橋本さんが得意な金粉を使ってのパフォーマンスでは
 ないのですか。例えば、橋本さんとヒープさんと私の3人が上半身に金粉を塗って、頭に 「せ」「ん」「ば」の文字を
  書いた 扇子を取り付けて、金粉なにがしという名前で売り出すとか...」
「な、なぜ、それがばれてしまったんだ。だが、安心したまえ、わたしはもう2つゆるキャラを用意しているのだ」
「2つめは多分、金粉を全身に塗った橋本さんをクレーンでつるしてもらって、メリケン粉が入った箱の中にある、
  大福餅を口だけで探り当てる。それを見て、梅田の紀伊国屋書店の前にいる 人たちに喜んでいただこうというのでしょうが、
  これはゆるキャラとは言えない...」
「た、確かに田中君がいう通りだが、もうひとつはわからないだろう」
「だいたいわかりますよ。きっと、昔、よくたこ焼きを乗せるのに使われていた、木製の舟の大きなやつを作ってその上に
 われわれが顔を出し、たこ焼きのように青のりなどでデコレーションして、たこ焼き三兄弟として売り出そうと
 しているのでしょうが ...」
「ど、どうして、そこで一息いれるんだ」
「ゆるキャラというものではなく、橋本さんのパフォーマンスにすぎないと思います」
「そ、そうか、私が悪かった。ということは、残った田中君が考えた「燃えるサンドイッチマン」に決定ということに
 な、なるのか」
「まあ、最初はチョロチョロでも、燃え上がるかもしれませんよ。次回までにどのように活用するか考えておいてください。
  ぼくは、燃え盛る炎のハリボテを作成し、衣料品店のおじさんにらくだの上下と赤い腹巻きの在庫があるか訊いておきます 」