プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生262」

小川と秋子は久しぶりに週末に時間が取れたので、名古屋で音楽の勉強をしている桃香を訪ねることにした。
名駅の改札口を出ると桃香がいたが、大川と相川も一緒だった。
「おとうさんが、午前10時にここに来てというから、10分前にここに来たけど、アユミ先生のご主人と
 相川さんが先に来られていたのでびっくりしたわ」
「そうか、それは悪かったね。先に言っておいたらよかったね。なぜここに来てもらったかというと、
  今日の役者の人全員と事前に打ち合わせをしておきたかったからなんだ」
「打ち合わせって、何の」
「まあ、桃香の将来のためになることをみんなでしようというわけさ。アユミ先生ともベンジャミン先生とも
 仲良くやっていけるようにひと芝居するわけさ。でも、アユミ先生は口先だけでは納得しない厳格な人だから、
 口から出た話にこれからみんな拘束されることになるんだが...。ところで相川さん、今日のことは
 ベンジャミンさんに話してあるのですね」
「もちろん、午前10時30分にここに来るように言っていますので、手っ取り早く打ち合わせを
 済ましておきましょう」

「そんなこと無理だと思うな。お父さんは週末忙しいし、アユミ先生のご主人もヴィオラを引けるの
 かしら。相川さんのピアノは大丈夫だろうけど。第一、3人が揃うことはほとんど...」
「桃香、これは、おかあさんの提案なんだ。モーツァルトの「ケーゲルシュタット・トリオ」を3人で演奏しよう
 というのは。おかあさんは高校時代に仲間とこの曲をよく演奏したそうだが、ぼくはメロス・アンサンブルの
 演奏を何度かレコードで聴いたくらいかしら」
「みなさん、安心して、小川さんの指導は私がさせていただきますので。それから大川さんの指導は
 ベンジャミンさんにお願いしてあるの。で、この曲を何とか小川さんが演奏できたら、桃香の指導を
 ベンジャミンさんに任せてとアユミさんにお願いしようと思うの」
「難しい曲よ」
「この曲を1年間で演奏できるようになったら、アユミさんはきっと、それは無理だと言うから、もし仮に
 それができたら、 桃香の音楽教育の主導的役割をするのはベンジャミン先生ということに了解してもらうの」
「でも、そんな提案にアユミ先生が耳を傾けてくれるのかしら、今日、両親だけでなく相川さんやベンジャミン先生も
 お邪魔すると知ったアユミ先生は、これはきっと何か企んでいるわと言っていたわ」
「家では企みはたたき壊してやるわと言っていましたが...。あっ、ベンジャミンさんが来ましたよ」
「オウ ミナさんおソロイですね。ワタシのためにいろいろカンガエていただいてアリガトウございます。
 このシュウタンバじゃなくてシュラバをくぐり抜けたら、ミナサンに感謝します。ヨロシクご協力ください」
「そういうことだから、みんな張り切って行きましょう」
「それでは、ミナサン、行きますヨ。エイエイオー」
「お母さん、お父さんたち、すごい気合ね」
「ふふふ、でも大切なことだから、モチベーションは高い方がいいと思うわ」