プチ小説「友人の下宿で9」

「みなさん、今日はブラームスの交響曲チクルスをお聴きいただきます」
「なんだその、ちち何とかというのは」
「ドイツ語の辞書を見ると、Zyklusというのは円とか輪とかいう
 意味で英語のcycleにあたる。つまり交響曲全体を一連の作品と
 見なして、その全曲を通して聴こうという考え方です。最初はベートー
 ヴェンのをと考えましたが、7時間近くかかるので、ブラームスに変更
 しました。それでは最初に第1番をお聴きいただきましょう。よくブラ
 ームスはベートーヴェンの交響曲を意識してなかなか最初の交響曲がで
 きなかったであるとか、この交響曲第1番の最終楽章のテーマがベート
 ーヴェンの第九のあの有名なテーマに似ているとか言われますが、ブラ
 ームスの音楽の魅力が存分に味わえる曲というのは確かなことだと思い
 ます。ミュンシュ指揮パリ管弦楽団でどうぞ」

「次にお聴きいただくのは、ブラームスの田園交響曲と言われる、交響曲
 第2番です。他の3曲がどちらかというと内面的な心にしみる曲ですが、
 この曲は開放的で明るく喜びに満ちた曲です。カラヤン指揮ベルリン・
 フィルの演奏でどうぞ」

「3曲目は交響曲第3番です。他の交響曲に比べ短く最終楽章も盛り上がりに
 欠けますが、それでもブラームス独自の渋い味わいのあるメロディが随所
 に聴かれる曲です。セル指揮クリーヴランド管弦楽団の演奏でどうぞ」

「最後の曲は交響曲第4番です。渋いと言われるブラームスの曲の中でも最も
 その傾向が強いと言われている曲です。今からお聴きいただくワルター指揮
 コロンビア交響楽団の演奏はその魅力を存分に引き出したものと言えます」

「ベートーヴェンのを2回に分けてしたらどうですか」
「残念ながら、1番と8番の気に入ったのがないんだ。全部そろったら、考えるよ」