プチ小説「青春の光54」
「は、橋本さん、ようやく被り物が完成しました」
「うーん、燃え盛る炎というのがよくわかるよ。ハリボテでよくぞここまで作ったもんだ。でも、腹巻きは
目出し帽のように被らないのかな」
「ええ、顔を真っ赤に塗った方が面白いんじゃないかと思って。やっぱりインパクトがあるほうが受けるでしょう」
「なるほど。その下はらくだの上下、シャツを着てパッチをはいて、赤い腹巻きはお腹に巻いてということになるのかな」
「そうです。あとは、橋本さんがこれをどのように活用されるかということなんですが、いかがですか」
「と、ところで他に誰か来るのかな」
「......」
「ど、どうしたんだ」
「ピクウィック氏とヒープさんも加わっていただくつもりだったんですが、子供たちの夢を壊したくないと
言われてしまいました」
「それも、そうだな。わかった、今回はわれわれ2人で頑張ることにしよう。ところでサンドイッチマンだから、
広告を前後にぶら下げると思うのだが、持って来なかったのかな」
「ええ、持ってきませんでした。もともとゆるキャラは活字に縁がないというか、愛くるしい表情で
漠然としたイメージを大衆に持ってもらうという趣旨のものですから」
「そうなのか。じゃあ、われわれそれをどうして表現するかということになるわけだ」
「そんな難しい顔をしないでください。ぼくにいい考えがありますから。これを聞いてください」
「これは確か炭坑節だな」
「そうです。テープレコーダーを道端に置いて、これを鳴らして、人が集まってきたら、踊り出すんですよ」
「そんなことだけで、効果があるとは思えないが...」
「そこでさりげなくPRをするわけですが、その中身は今ここで考えればいいんじゃないですか。
なにかいいアイデアがありますか
」
「私が小学生になったころに大ヒットした曲があるんだが、何だかわかるかな。1968年頃のことだ」
「その頃だと、「黒猫のタンゴ」かなぁ」
「いや、その前の年だ。「帰って来たヨッパライ」というのを知らないか」
「あの、33回転のレコードを45回転で聞いたような...」
「私は1967年末か1968年初めにその生放送を見ていたんだが、曲が終わるまで、笑い通しだった」
「それはなぜなんでしょう」
「やはり実生活にないことを体験すると、笑いに繋がるということじゃないのかな」
「ということは、炭坑節の33回転レコードを45回転で掛けて、われわれが踊るという」
「田中君、われわれが中途半端なことをしてもしかたがないだろう。78回転で踊ろうじゃないか」
「......」
「は、橋本さん、たくさんの観衆が集まって来ましたが、船場さんのPRはどうするのでしたっけ」
「そ、そうだったな。でも、面白いから、われわれはしばらく純粋にこれを楽しめばいいんじゃないか。
これをどう生かすかは、これからゆっくり考えるさ」
「......」