プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生275」
小川は1年ぶりの大阪出張で新幹線の車中にいた。新横浜の駅を出発してしばらくすると、聞き覚えのある声が
通路側から聞こえて来た。小川が車窓から通路に目を転じるとそこにはベンジャミンがいた。
「オウ アンタモノットッタンヤネ。ワタシハなごやに帰るんヤケド、アンタハ」
「ぼくは大阪出張です。どうです、もうすぐしたら隣の席の人が帰って来られるので、自由席に行きませんか。
今の時間なら、2つの席が並んで空いているのを見つけるのは簡単だと思いますから」
「エエヨ。イコイコ」
ふたりが3号車に入るとすぐ、ベンジャミンが2人掛けの席がふたつとも空いているのを見つけた。
「ここにしましょう。名古屋まで1時間余りですけど、久しぶりにふたりだけで話をしましょう」
「ソウヤネ。イツモナラ、アキコさんかアンサンブルのメンバーがおるから、アンサンブルの話ばっかりヤモンね」
「ところでいきなり問題の核心部分に入りますが、アユミさんと一緒に演奏したいと言う気持は今でもお持ちですか」
「......。われー、なにユートルンジャー。モウイッペンユウテミー。イッテモウタロカ。オノレハ...」
「ど、どうしたんですか。いきなり」
「いやー、ワタシノ同僚で、河内の人がいて、カレはいつも宴会で「河内のオッサンの歌」を歌うのですが、
一度、ホエテミタカッタノデス」
「吠えて、ですか」
「ソウデス。タシカニ、ワタシハあゆみさんとイッショにベートーヴェンやブラームスのヴァイオリン・ソナタを
エンソウしたいのですが、来年ノテンカワケメノ関ヶ原まではガマンしようと思うので、その話はオクラに
イレておきましょう」
「確かに仰る通りですね。気をつけます」
「それにアンタとこのアキコさんもミミちゃんもモモカちゃんも知っとることやから、あゆみさんの気持次第で
ハナシは早くまとまるかもしれません」
「アユミさんの気持次第?うちの家族?」
「実は、このハナシは前からアキコさんがユウトッタハナシでな、ワタシモだんだんノリキになっとたんやが...」
「ぼくがアユミさんに挑戦状を突きつけたので、雲散霧消となってしまったと...」
「ソヤナイヨー、中断しとるだけや。決着が着いたら、正式にあゆみさんにモウシイレルつもりナンや」
「でももしぼくが...」
「ホラホラ、そんなヒソウなカオしてんと、もっと明るいハナシをシマショ。どうでっか、小説は書いてハリマッカ。
アイカワのハナシやと、大分ジョウタツしとるとキイとるが」
「ええ、小説は相川さんの指導で楽しくやっています」
「ホタラ、アンタ、ミミちゃんが横についてくれとるんやから、くらりねっとの練習も楽しいんとチャウン」
「それはそうも言えますが、まだまだ」
「イヤイヤ、同じコトや。いかに根気よくケイゾクするか。自分のひとりの意志でケイゾクするには、ヤル気を燃焼させんと
アカンのやが、その役割をミミちゃんが引き受けてくれておる。娘さんの応援に応えるためにも、アンタは頑張らなアカン。
......。
てなことをハナシとったら、もうなごやや。また次の日曜日におジャマするから、ヨロシクな。ホナ、さいなら」