プチ小説「青春の光57」

「は、橋本さん、どうかされたのですか。腕を組んだりして。どうせ、今晩のおかずのことを考えているんでしょう」
「ま、それもあるが...実は、船場君から宿題をもらってね」
「どんな宿題ですか。まさか、歌劇「大いなる遺産」のことではないでしょうね」
「えーーーーーーーっ、なぜ、そのことを君が知っているんだ」
「しらじらしいですよ。われわれは駆け出しの物書き船場弘章が創作したキャラクターなんですから、彼のことで
  知らないことがあるとかえって不都合ですよ」
「そんな言い方をされると、身もふたもないじゃないか」
「すみません。で、船場さんはそのオペラをどうしろと言われているんですか」
「船場君はどうもわれわれのPR活動が限界に来ていることにようやく気づいたらしい。それで」
「それで、ぼくたちに新しい仕事をさせようと...」
「いやいや、あくまでも活動の中心はPRなのだが、われわれのキャラクターを使って、いろいろなことをやってみたいらしい」
「例えば、どんなことですか」
「歌だよ」
「歌ですか」
「田中君はモーツァルトの歌劇「魔笛」を知っているかい。ジングシュピールという言葉を聞いたことがあるかな」
「ジングルベルですか。クリスマスのシーンは「魔笛」にはなかったと思いますが」
「いやいや、ジング(歌)とシュピール(会話)つまり全編これ歌という歌劇ではなく、劇を盛り上げる時に独唱を
 使うという歌劇で、語り、会話、合唱も効果的に取り入れられている。 船場君は、主人公小川が友人の大川に勧められて
 歌劇の台本を 書くことにした。1年半の猶予をつけたので、内容について考える時間はたっぷりあるんだ」
「で、われわれが、そのテーマソングを作るのですか」
「それだけだったら、こりゃいーなぁと言ってめでたしめでたしとなるが、それだけではだめなんだ」
「どんなことをすればいいんです。もっと具体的に言ってください」
「それじゃあ、順番に言おう。船場君は3つのことをとりあえず考えてくれといっている。1つ目は、『大いなる遺産』は
 それほど長い小説ではない。また主要な登場人物も少ない。それでも2時間から3時間のオペラにしようとすると、
 取捨選択が必要になる」
「そうですね。どの場面を取り上げるか、決めなければなりませんね」
「そうだ。それから2つ目は、登場人物を選び、プロフィールをつけてしまうことだ。ずるいやり方かもしれないが、
 チラシで登場人物について知ってもらっておけば、本編もわかりやすいだろう。なにせ短い時間にいろいろ盛り込むのだから」
「なるほど」
「で、3つ目が歌ということになる。劇的な、観客が大粒の涙をぽろぽろ流すような歌詞を考えてくださいと言っていた」
「どうです、ぼくは、2つ目の登場人物の選択なんかがまず最初だと思うのですが」
「よし、じゃあ、次回までに登場人物とそのプロフィールを考えておこうか」