プチ小説「たこちゃんの歌劇」

オペラ オーペラ オペル というのは歌劇のことだけど、恥ずかしながら、ぼくはオペラの台本に挑戦することに
したんだ。というのも自作の小説「こんにちは、ディケンズ先生」で主人公の小川が、友人大川の委嘱を受け、歌劇
「大いなる遺産」の台本を作成することになり、ストーリにその歌劇を織り込まなくてはならなくなったからなんだ。
ぼくはクラシック音楽は高校を卒業してから聴き始め30年以上聴いているが、オペラに興味を持ち始めたのは20年
くらい前からなんだ。「魔笛」「タンホイザー」「椿姫」「トロヴァトーレ」「ボエーム」「セビリャの理髪師」を
たまに聴くけど、演奏時間が長くなるのでどちらかというと苦手と言える。文庫本で言うと2冊になる、長編小説
「大いなる遺産」を2時間くらいに収めようとすると取捨選択が必要になる。それにオペラだから、華やかなデュエット
や心にしみる独唱それに舞台を盛り上げる合唱の歌詞なんかも考えなければならない。ぼくには親友の橋本さんと
田中君がいて、彼らがいろいろ創作のためのヒントをくれることになっているけれど、それに甘えないでちゃっちゃと
自分の考えを鼻田さんに打ち明け、指導を仰ごうと思っている。それにしても『こんにちは、ディケンズ先生』船場
弘章著 近代文藝社刊はさっぱり売れなかったが、大学図書館に109、公立図書館に182受け入れてもらえたので、
引き続き出版社で取り扱ってもらえることになった。出版社の担当の方は、「小説が売れ出すまで10年くらいかかる
こともありますので、その時を待っています」と言ってくださったので、それまでは精一杯頑張ろうと思うんだ。
これからは、さっぱり売れていませんが、109の大学図書館と182の公立図書館に受け入れていただいていますので、
ぜひお読みくださいと言って、いろんなところに売り込みに行こうと思う。ディケンズというすばらしい小説家を少しでも
多くの人に知ってもらうというのは意義のあることだし、ディケンズという熟練した作家の技法を知れば小説家を志す
人も増えることと思う。ところでスキンヘッドのタクシー運転手鼻田さんは、今日も駅前で客待ちをしているのかな。
いるいる。「こんにちは」「オウ ブエノスディアス デオイールロ セレイリーアン」「そんなこと言って、ぼくの気を
くじかないでください」「それでもわしはあんたの保護者みたいなもんやから」「いつから、ぼくの保護者になったんですか」
「そらあんた、今日からやでー。今までは、『こんにちは、ディケンズ先生』が少しでも売れるようにと頑張っとったんやが、
これからは、実績がほとんどないちゅーのに、いろんなことをやってみたいと言うとる。やっぱり、そう言う人には、苦言を
呈する人がおらんとなー」「そうですか。ところで鼻田さん、ぼくは、宝塚歌劇「大いなる遺産」は大いに参考になったと
思うんですが」「どんなところがかな」「ピップとエステラの恋愛ですね。クライマックスで二人がテュエットをして
盛り上がるところなんかは、じんと来ました。挿入歌も心に残りました」「なるほど、それだけか。他にもあるんやろ」
「ええ、小説に出て来る登場人物はすべて出ていたように思います。ただ、限られた時間で収めないといけないので、
場面が省かれたり、場面の順番が変えられたり、台詞が切り詰められたり、登場人物の演じる内容が変えられたりしていますが」
「それを船場はんは、どう思っとるねん」「それは台本を作る人の裁量というか。うでの見せ所だと思います。原作者の
意志を汲んでその上で、自分の創作を盛り込んで行けばよいと思います」「そうや結果はどうであれ、原作者の志を
きっちり、きっちり、きっちり、きっちり」「ど、どうしたんですか」「気にせんといて、ちょっとギャグを言って
みたかっただけや」「そうですか。で、きっちり、きっちり...」「まねせんといて。それでやな、大事なことはそれを
きっちり、きっちり、きっちり、きっちりすることなんや」「1回でもいいと思いますが」「そうか、原作者の志をやな、
きっちり押さえなアカンのや。ええな、わかったら、いつものように基礎体力を養成するでー」そう言って、鼻田さんが
自分のタクシーの周りでうさぎ跳びを始めたので、ぼくもそれに続いたのだった。