プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 風のささやき編」

わしはちいこい頃から家のきしむ音や人のささやきに敏感で、人の気配がないのに突然そんな音や声がしよると縮みあがったもんやった。わしがちいこかったある時、木造長屋の我が家に帰ってくると誰も家におらずみしみし音がしたから、鞄をおいてすぐに外に出ようとしたんやが、突然、天井裏で何かが駆け抜ける音がしよった。わしは気絶しそうになったんやが、すぐに猫が甘ったるい声を出したんで、ああもうそういう季節なんやと早熟なわしは思って気を取り直したもんやった。こういう怖がりの性格は大人になっても解消されず、今でも夜中に家がきしみだすと急いで深夜放送のスイッチを入れて、他に気をそらすようにしとるんや。船場は、3月9日に中古住宅を購入したんはよかったけど、夜中のきしむ音にビビっとると言うとったが、幽霊さんといまでは仲良くやっとるんやろか。おーい、船場、どないやねん。はいはい、にいさん、おっしゃるとおりで毎夜、消灯するとすぐに、トントントンと5分おきくらいに鳴るのには困っとります。3階の和室で寝ていると屋根裏部屋で聞こえるので、ガバッと飛び起きて、屋根裏部屋に駆け上ったりするんですが、人間も動物もおらへんのです。そら、きっとなぁ、お前、幽霊や精霊がよう出てくる、ディケンズの小説を読むからそういうことになったんやで。そうかもしれませんが、いまさらディケンズ先生の小説をやめるわけにもいきませんし、困っとります。ほいで、他になにかやっとるんかいな。ええ、トントントンという音が聞こえたら、ガバッと飛び起きて屋根裏部屋への階段を引き下ろす棍棒で天井を突いたりもしました。そら、あまり効果があるとは思えんな。他には、夜中にトントントンと音が聞こえるとガバッと飛び起きて、屋根裏に向かって「夜中にうるさいぞー」と叫んだりもしました。まっ、そんなことしかようせんやろな。にいさん、ほたら、なにかええ方法でもあるんですか。そら、お前、言うてみたらお前よりずっと前からそこに住んではるんは明らかやねんから、仲ようやらなあかん。短気を起こすんはもってのほかや。受け入れられるところは受け入れてあげんとな。そしたらにいさんやったら、トントントンとなったら、どないしはります。そら、おおきに、わしからもちゅーてな、トントントンとお返ししたらええんや。でも5分おきに結構大きな音がするんですよ。ほしたら、礼を失したらあかんから、夜中までも、未明までも、夜明けまでも大きな声でトントントンと返すんや。ほしたらトントントントントントンと音がしたら、そらもちろんトントントントントントンと返すんや。ほしたらトントントントントントントントントントンと音がしたら、そしたらガバッと飛び起きて、わたしもサービスするでーちゅーてな、屋根裏部屋の階段を引き下ろして、10回登ったり下りたりするんや。そんなことばっかりしていて、いつ寝ればいいんです。そらそれを2日も続けられへんから、2日目はぐっすり寝られるちゅーわけや。ええか、幽霊さんと仲良くしていたら、いつかはめぐりめぐってええことがあるんやから、続けなあかんでぇぇぇ。情けは人の為ならずやでぇえぇ。わかりました。早速、今晩からやってみますが、にいさんもたまにはぼくのかわりに泊まって同じことをやってください。わしはあかん、どうしてもちゅーんやったら、もうこの小説には出たれへんからなー。二度とそれをゆーなよ。