プチ小説「たこちゃんの調子」
コンディション エスタード ツースタンド というのは調子のことだけど、ここのところぼくの調子が芳しくない。引越しに伴う苦労はとうに終わったけど、何かいまいち乗れない日々が続いている。引越しですぐに治療しなかった、帯状疱疹の影響があるのかもしれない。両親の介護が必要になり、転居の場所を考えていたら、なんとその隣の家が破格の値段で売りに出されたのだった。親戚一同の勧めもあってすぐに購入して3月に移り住んだのだが、夜間に奇怪な音がしたり、ローンや税金のやりくりで、晴天の日々というよりもどんよりした梅雨空という日々を送っている。とはいえ毎月の住居にかかる費用が大幅に減って、『こんにちは、ディケンズ先生2』を出版する財源ができたのは有難かった。その希望の光が、すべての悲しげな影を消し去ってきたと言えるだろう。秋に本を出版することで得られる歓喜を楽しみにして、日々なんとか頑張っていると言える。先週の週末にカバーの装丁もほぼできあがったと連絡があり、近代文藝社のみなさんがすばらしい本の外観を作ってくださったのを見て、これなら1冊目の数百倍の売り上げが期待できるのではと思っている。この本の売りは5倍笑えるところだろう。それから登場人物も小川、秋子、大川、アユミとディケンズ先生だったのが、小川の二人の娘、新しく登場する相川さんなんかも興味を持っていただけるように描いているので、このあたりもきっと楽しんでいただけるだろう。もちろんディケンズの作品『大いなる遺産』『二都物語』についてのコメントもしている。今度出版する小説が多くの人の共感を呼び、もっとぼくの小説を読みたいという方がたくさん出れば、ぼくは西洋文学やクラシック音楽の資料を読み漁り、楽しみながらそれらの情報が身につく小説を少しでも多く提供したいと思っている。そうすれば以前からの夢が叶うことになり、人生も右肩上がりになり、身体の調子も上向きになることだろう。駅前で客待ちをしている、スキンヘッドのタクシー運転手に最近会わなかったが、どのように過ごしていたんだろう。そこにいるから訊いてみよう。「こんにちは」「オウ ブエノスディアス エステエスウントラバッホケテコンヴィエネ」「ありがとうございます。一所懸命頑張ります」「そうやその意気で頑張りや。そやけど...」「な、なんでしょうか」「最近、あんたここの喫茶店に来ーへんかったの、なんでなの。教えて」「そ、それはですね。引越ししたからと勤務時間が変更になったことなんです。20分しか店におられないので、節約の必要もあり行かなくなりました」「わしはここ3か月間あんたの姿を全然見んかったんやで...」「どう思われていました」「とっても、とってもさみしかったんよ。ぶちゅ」「わーーーーー、やめてください。ぼくにそんな趣味はありません」「冗談やがな。あんたやったら、関西人のいちびりは理解できるやろ」「ぼくは中程度のいちびりは理解できますが、ハードないりびりはついていけません。男同士でキスするなんて、羽目を外しすぎです」「あんた、それははき違えとるで」「えっ、なんとおっしゃりましたか」「はき違えとるちゅーとんのや。あんたもいつか世界に羽ばたく時がくるやろ」「???」「そしたら、世界のVIPの人と接見するかもしれん。そしたらやな、男同士でキスすることもあるかもしれへんやんか。それのためのおけいこなんよー」「で、でもつばをたっぷりつけるのはやめてください」「ところでやな話は変わるけど、せっかく腰を落ち着行けて本を読める場所を見つけてたくさんの本を読んだちゅーのに、それをあっさり捨てるんかいな。もったいない話やな」「ぼくもそれは迷っているんです。こうして鼻田さんと話をするのは好きですし...」「よしほんならこうしよう。読書の場所は提供でけへんけど、わしが朝の1時間ほどの時間を提供するから、あんたの職場まで話もってリヤカーごっこで行くことにしよ」「や、やめてください。うさぎ跳びくらいにしてください。ここは中程度で我慢してください」「よし、ほなそれでいこ」そう言って、鼻田さんがぼくの職場の方にうさぎ跳びで向かったので、ぼくも続いたのだった。