プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 モヒカンライダーとの対決編」

わしがちいこい頃は、近くの公園でよう遊んだもんやった。ポプラ並木や藤棚があって、夏は蝉取り、冬は探偵ごっこなんかして遊んだもんや。ところがある日、ポン菓子屋の軽トラがやって来て、しょっちゅうドカンドカンとやりよるから、子供はみんなびびってしもうて公園にいかんようになった。特にわしは運動会の時でもスタートの時に耳に指で栓してみんなが走り出してから走ったくらいやから、一回近くでドカンちゅーのを聞いてからは2度と公園に行かんようになった。そういうわけで、わしは破裂音、爆発音は大の苦手や。それでも今から考えたら、小学校3、4年になって夕方まで遊びまわっているのをやめるええ切っ掛けになったのかもしれん。そう思うたら、ポン菓子屋に感謝せなあかんのかもしれんのやが、最近、これによう似たことがあったんや。わしは昔は交通ルールを守るええこやった。信号は青に変わるのを待ったし、右側通行は厳守やった。それがいつのころからか、信号が点滅しだすと走り出して、無理やり渡ろうとしたり、自転車が正面から来るのを嫌って左側通行が当たり前になった。そういうことで家から10分ほど歩いて駅前の広い通りに出ると、すぐに左側を歩くことが習慣になっとった。歩道なんかあれへん5メートル程の幅の道やから、バイクもしょっちゅう側を走り抜けて行きよったが、その程度やったら、わしは腹が座っとるから、へのかっぱやった。ところがある日、改造バイクの30代くらいの兄ちゃんがぶうーーーん、ぶうーーーんといわしながらわしのそばに大リーグボール1号みたいに寄せたと思ったら、いきなりぱんぱんと鳴らしよった。わしはビックリして尻から落ちそうになったが、何とかこらえたんや。でもこれ内緒やけど、前の方はあかんかったんや。それでなわしは、30メートル前をぶうーーーんといわしとるやつの姿を目に焼き付けたんや。アロハシャツにGパンはいて、青いヘルをかぶっとったんで、2、3日するとわしと同じ電車で大阪方面へ行くことがわかった。もちろんそのモヒカンヘアーの兄ちゃんはすぐにわしのことに気が付いたようで、にたーーーっと笑うとこちらがどう出るか、待ち構えよった。それでわしも負けんようにウルトラマンのような臨戦のポーズをとってたあーーーっと威嚇したかったが、何もよう言わんと横を通り過ぎたんや。そうしたら次の日も次の日も同じようにわしの側にバイクで近付いてはぱんぱんと鳴らしよった。そうしてホームに上がると挑発するようににたーーっと笑いよった。ほんまに腹が立つんやが、どないしようもない。こういうときに役に立つのが、船場なんやが、最近、あいつ忙しそうにしとるから、どうやろな。まあいっぺん呼んでみたろ。せんばー、おるかー。はいはい、兄さん、どないしはったんですか。実はこれこれしかじかなんやが、ええ方法はないかいな。で、兄さんは何かええ方法持ってはるんですか。そうやなー、ぱんぱんならしよったら、ウサイン・ボルトのように走って追いかけてな、並走したところで耳元でぱんぱんちゅーてゆうたったら、腰ぬかすんのとちゃうか。ぼくはそういうやり方は反対ですね。元はと言えば、交通ルールを守らない兄さんが悪いんだから。ほな、どないするねん。さっき兄さんが言わはった通りに正しいことをやればいいんです。そうか、ほたらやってみるわ。そういうことで、わしは駅までずっと右側を歩くようにしたんやが、モヒカンの兄ちゃんもわしにかまわんようになりよった。この前、ホームでちらとモヒカンの兄ちゃんの顔を見てみたが、少し目が潤んどった。わしはわしを正しい道に戻してくれた兄ちゃんに、ありがとうなと言おうと思たけど、そこまでわしはできた人間やないんで黙って通り過ぎたんや。