プチ小説「友人の下宿で12」

「みなさん、今日はフランスの交響曲を3つお聴きいただくそうです。わたしの好きな
 幻想交響曲も聞けるということで楽しみです。それでは高月さん、はりきってどうぞ」
「交響曲はバロック音楽以前の時代からあるようですが、やはり交響曲の生みの親と言えば、
 ハイドンという気がします。そしてモーツァルト、ベートーヴェンで交響曲のかたち(4つの
 楽章を持つ重厚な音楽)が完成し、ロマン派の時代に入って個性的な交響曲が生み出されて来ます。
 ロマン派初期のシューベルト、シューマン、メンデルスゾーンの美しい旋律に満ちた交響曲や
 ドヴォルザークやチャイコフスキーのような国民性を全面に押し出した交響曲もすばらしいのですが、
 今日はより個性的で、一度聴いたらその虜になってしまう交響曲をお聴きいただきます。
 最初は、フランクの交響曲ニ短調です。フランクはベルギー人ですが活躍の場が主にフランスで
 あったのでフランス音楽のカテゴリーに入れてもよいと思い、本日聴いていただくことにしました。
 とにかく言葉でなく1回聴いていただければ、わたしの思いをわかっていただけると思います。
 フランクは信仰に厚い人で音楽もそれが前面に出されています。第2楽章の心を洗われるハープの調べ、
 最後の楽章に繰り返される端正な旋律はこの曲を魅力的なものにしています。フルトヴェングラー指揮
 ウィーン・フィルの演奏でお聞き下さい」

「次にお聴きいただくのはサン=サーンスの交響曲第3番「オルガン付き」です。タイトルの通り
 オルガンが活躍する交響曲で、第1楽章と第2楽章の後半の部分で出て来ます。この交響曲は2つの
 楽章で構成されていますが、前半と後半では曲想が全く違うので4つの楽章の交響曲と考えてもよい
 ように思います。オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団の演奏でどうぞ」

「最後はやはり幻想交響曲をお聴きいただきましょう。この曲について語る時、ベルリオーズとある女性
 との恋愛が取り上げられますが、その恋愛によって彼自身の心の中に強い感情のうねりのようなものが
 呼び起こされて生まれた曲と言うことができると思います。最初は卓越したオーケストレーションの第4
 楽章や終楽章が面白く感じるのですが、最初の楽章の感情の高まりや恋人と舞踏会で踊る第2楽章が
 この曲の聞きどころであると思います。モントゥー指揮サンフランシスコ交響楽団の演奏でお聴き下さい」

「百田、どうだった」
「今日はフランクの交響曲を聴いて、心が洗われたから銭湯に行くのはやめにするよ」
「だめだめ、風呂屋へは毎日行ったほうがいいよ」