プチ小説「青春の光65」
「は、橋本さん、どうされたのですか」
「田中君、どうかされたって、君は何も感じないのかね」
「壁紙が変わってリニューアルしたとかですか」
「違う、違う、今までなら2週間に一度はHPを閲覧していただいている読者の皆さんの前にわれわれが現れて、近況報告などをしていたのに、前回は8ヶ月、今回も2か月以上われわれを登場させなかった。これはどういうことなんだ」
「船場さんは両親の介護や勤務時間が変わり仕事前に職場近くの喫茶店で読書ができなくなったことや2月7日に開催されるクラリネットの発表会の練習などをその理由としてあげておられますが...」
「われわれは船場君が日の目を見られるように一所懸命頑張って来たのにこの仕打ちなのか」
「まあまあ、抑えて、抑えて。船場さんは、春になって落ち着いたら少しずつ活動を元の軌道に戻していく、一番のネックは読書量の減少なので前日30分早く寝て、前に行っていた喫茶店に行こうと思っていると言われていました」
「ということは、どうなるのかな」
「夜は9時30分に寝て、自宅を午前6時前に出発するということになります」
「そうか、そうしてなんとか前のペースに戻そうというわけだな」
「そうです、物を書く人の栄養となるのは面白い本を読むことですから、それから離れてしまっていたのを元に戻すということです」
「でも、そうやって活動を徐々に再開させたとしても、本が売れなければ仕方がないんじゃないのかな」
「まあ、それを言われると宣伝隊の一員である私の力不足を感じてしまうのですが、そのことを言うと船場さんは明るくきっぱりと話してくれました」
「ほう、どう言ったのかな」
「本が爆発的に売れて、物書きとして余生を送れるのならこれほどの幸せはありませんが、世の中そんなに甘いものではないと思います。第一、新人賞などの賞をいただいていない実績のない私が大手出版社から出版することは一生ないと思います。ただただ地道に意義のある物を、できれば楽しい文章をたくさん入れて、書き残していくということを続ける。その中で喜びを見出していけばよいのだと思います。最近、とてもよいことがありました。日本で1位、2位を争う、京都大学の図書館に『こんにちは、ディケンズ先生』『こんにちは、ディケンズ先生2』が受け入れられました。今までも、東北大学、名古屋大学、九州大学、東京芸術大学、早稲田大学をはじめ、100以上の大学の図書館に『こんにちは、ディケンズ先生』は受け入れられていますが、ディケンズ・フェロウシップの日本支部長が京大で教鞭をとられていて、出版してすぐにあった総会が京大であったので、感慨深いものがあると言われていました」
「『こんにちは、ディケンズ先生2』の方はまだ大学図書館、公立図書館を合わせて30余りなんだが、『こんにちは、ディケンズ先生』は公立図書館も合わせて、300も受け入れされている。それでも世間ではまったく認知されていない。いつになったら、巷間で取り上げられるようになるんだろう」
「まあ、それは天のみぞ知るということになります。船場さんも縁があったらなんて言っていますし。それよりディケンズ・フェロウシップの日本支部長をはじめたくさんの先生方の励ましや情報提供は今後の人生の宝物になると言われていました。最後に船場さんは、長いようで短い人生、一念発起して一つのことに打ち込んでもすぐに活躍できるわけではない。できるだけのことをして機会を待つ。ただそれだけのことに打ち込んで、人生のサブストーリーをつまらないものにすることはしょうもないと思うと言われていました」
「そうか船場君らしい独りよがりの考えだが、多くの人に接して、彼の人生が実り豊かなものになることを祈っているよ」