プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生18」

小川はいつもの喫茶店で「荒涼館」を読んでいたが、下巻に入って物語の中にしばしば登場する
アラン・ウッドコートの活躍に注目するようになった。未亡人の母親の貯えを全て使い果たして
医師の資格を取ったウッドコートは、昼も夜も大勢の貧しい人たちを治療したがほとんどお金に
ならず、開業して4年経って資産も収入もないため船医になってシナとインドに行かざるを得な
くなる。インド洋で自分の乗る船が難破し多くの人が亡くなるが、ウッドコートは命を取り留め、
英雄的な行動をし、多くの命を救い多くの人の見本となり、生き残った人たちを無事陸地へと
導いた。ウッドコートはそれからしばらくして帰国するが、トム・オール・アローンズ通りで
ヒロインのエスタを重い感染症に陥らせたジョーと出会い、医師としてジョーを正しい道へと
導くと共に治療を行う。ウッドコートはジョーの命を救うことはできなかったが、天に召される
前に純真な心を取り戻させる。
<僕も大学生の頃は世界に雄飛したいと思って、スペイン語や上級英語のクラスで勉強したもの
 だった。いくつか会社訪問をしたが就職できず、それが果たせなかった。でも目標を持って
 一所懸命勉強したスペイン語は、ある程度話すことはできる。今の会社は海外に拠点がないので
 スペイン語を使うことはないだろうが、何かの時に少しでも国際貢献できないものかと思う>
喫茶店で待ち合わせた秋子がやって来た。
「小川さんが熱心に勧めるから、私も「荒涼館」を古本屋で購入したわ。病気でヒロインの容貌が
 変わってしまうなんて...。でもそれから心を開いて多くの人に優しい気持ちで接するようになる
 と言うのは、ディケンズ先生らしい考え方ね。どんな結末になるか楽しみだわ」

その夜もディケンズ先生は陽気だった。
「小川君、やはり秋子さんは本当にいい娘だね。君と同じように「荒涼館」読んでくれるのだから。
 それに小川君に習って、私を先生と呼んでくれる。一度会って話したいと思うが...。
 「荒涼館」は訴訟の悪い面を描いているとよく言われる。その最大の犠牲者のリチャード・
 カーストン、悪徳弁護士のタルキングホーンやヴォールズが登場するところは読むのが辛いかも
 しれない。でも、君が興味を持っているウッドコート君にはまだまだ活躍してもらうから、
 楽しみにしていてくれたまえ」