プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 二兎でも三兎でも追いまっせ編」

わしはちいこい頃からながら族で、いろんなことを一緒にやりよった。小学生の頃は親と一緒にテレビでプロ野球中継を見ていたんやが、中学生になってラジオを買うてもろてからは、プロ野球中継を見ながら民放のラジオ局の夕方の番組も一緒に聴くようになった。高校生の頃はラジカセでラジオか録音したテープを聴きながら、勉強をやっとった。いつも歌っとったから、机に座って勉強しとったんと違ごうて、ただラジオを聴いとっただけかもしれん。スポ根マンガの主人公星飛雄馬は野球を、伊達直人はプロレスを、矢吹丈はボクシングを一途にやって燃え尽きたのやが、わしは長距離走はべべたやったし、球技は足手まといやったし、個人種目は基礎体力がなかったから相手にされへんかった。地道に自分の力にあったものをすればよいと思うて登山を始めたのは40歳を過ぎてからやったが、これが性に合っとったみたいで長く続いとる。Ipodちゅう便利なものができたから、ながら登山ができるようになった。JR比良駅を降りて、Ipodのスイッチを入れて、ながら登山をしていたらいつの間にか比良山系の最高峰武奈ヶ岳に着いたちゅー感じやが、これは自然に親しむ普通の登山とはちゃうのかもしれん。わしはせいぜいこれくらいのことしかようせんが、船場は40歳の頃に登山とホームページを始めたかと思うたら、小説も書き始めよった。LPレコードの鑑賞会を3ヶ月に一度開催するかと思うたら、7年前からクラリネットを習い始めて年一回発表会で演奏しよる。これだけのことをしていてどれもものになっとらんというのは、あいつがあかんたれで、ええかげんなことしかしよらんから星飛雄馬になれんのやと思うのやが、おい船場、そうと違うんか。はいはい、兄さん、なんですか、私のことを気にしてくれてはるんですか。そやないで、お前はあかんたれとちゃうのかちゅーて、訊いてみたかったんや。うーん、そうですね。『こんにちは、ディケンズ先生』『こんにちは、ディケンズ先生2』は全く売れず、せっかく京都大学の図書館に入れていただいたのに申し訳ないと思っています。ちゃう、ちゃーう、そやないがな、お前は登山、ホームページ、小説、レコードコンサートの司会、クラリネット演奏といろいろやりよるが、ひとつもものになっとらんちゅーことや。ああ、それなら、兄さんと考え方が少し考え方が違うようですので、説明させてもらいます。ほう、そうか、それはおもろいんか。まあ、ちょびっとはおもろいかもしれません。ま、我慢して聞くから、はよ話せ。実は昔、イギリスの小説家モームにのめり込んでいた時期がありまして、『人間の絆』の中の一文が今も心に残っているのです。こう書かれてありました。「人間一生のさまざまな事件、彼の行為、彼の感情、彼の思想、そうしたものから、あるいは整然とした意匠、あるいは精巧、複雑な意匠、あるいは美しい意匠をそれぞれ織り出すことが、できるというだけだ」「人はどのような好みの撚糸を選び出して、どのような模様を織り出すとしても、彼としては満足なわけだ」これを読んでから、自分の人生をひとつの精巧な織物であると認識するようになり、その意匠を美しいものにするためにいろいろなことに挑戦してみることにしたのです。なるほどなあ、そやけどどれも上手く行っとらんのとちゃうん。いえいえ、まだどれも結果は出ていませんが、美しい意匠を織り出しつつあるのです。人の人生というのは生がある限り続くのですから。ほやけど、お前、数か月前に始めたジョギングも中途半端とちゃうん。いえいえ、ジョギングもやることはきっちりやっています。2月の寒い日に無理をしたので、3週間、膝が痛くて走れなかったのですが、それも治り、今日も自宅から京阪樟葉駅駅まで走って来ました。ほう、それでどのくらい時間がかかったんや。5時間くらいか。それくらいかかりそうだったんで、樟葉から枚方まで京阪電車を利用し、枚方市駅から家まで走って帰って来ました。赤い水泳帽みたいなんかっぶって、黒色のジャージ上下と靴で京阪電車に乗ったんか。スポ根マンガの主人公はそんなずるこいことはやらへんで。まあ、そうかもしれません。でも、走りすぎて足に痛みが出て、3週間休むよりはいいと考えました。完全燃焼というのは聞こえはいいですが、意匠を織り出すことができなくなったら、私の場合、行き詰ってしまうことでしょう。そうゆうもんかな。まあ、やり始めたんやから、京都マラソンに出て、美しい意匠のひとつにしたらええがな。ええ、そのつもりです。