プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生303」
小川、秋子、大川、アユミが小澤病院のロビーに入ると秋子のアンサンブルのメンバーの幾人かが来ていて、秋子に挨拶した。
「おはようございます。そろそろ、客席の設営を始めようかと思っていたんです。今日はベートーヴェンの「春」を誰かが演奏されるのですね」
「ええ、こちらの大川さんご夫婦がされるのよ。大川さんは私たちのアンサンブルのためにいくつか編曲していただているの」
「そうなんですか、こちらのおふたりが。「ロンドンデリーの歌」の編曲って素敵だなと思っていたんです。これからもよろしくお願いします」
「こちらこそお願いします」
「ああ、小澤院長が見えられました」
「小川さん、今日も楽しいコンサートを期待していますよ」
「ええ、先生にも楽しんでいただけるよう、精一杯頑張ります」
「秋子さんは、今日、独奏で何か吹いてくれるのかな」
「今日は、普段はクラリネット独奏で演奏しない曲に挑戦したいと思っています」
「ほう、何という曲かな」
「先生は、フォルクローレをご存知ですか」
「ああ、知っているよ。サイモンとガーファンクルの「コンドルは飛んで行く」はフォルクローレの曲をアレンジしたものだったよね」
「そうです、その曲の他に「灰色の瞳」「花祭り」も演奏します」
「そうか、ケーナの曲をクラリネットで吹くのか。この前にクライスラーのヴァイオリン曲「愛の喜び」「愛の悲しみ」「美しきロスマリン」「ロンディーノ」それからパラディスの「シチリア舞曲」をクラリネットで演奏していて驚いたんだが、秋子さんは果敢に他の楽器の曲をクラリネットで吹かれるからそれも楽しみですよ」
「それも大川さんがピアノ伴奏用に編曲してくださるから、演奏できるんですよ。先生、その大川さんがこちらにおられます」
「大川です。いろいろとお世話になっています」
「いえいえ、いつもあなたの音楽を楽しませてもらっています。原曲の魅力を引き出してくれるあなたの手腕にはいつも感心しています。きょうの「コンドルは飛んで行く」も楽しみだな」
「じゃあ、そろそろ設営を始めましょうか。いつものように50の折りたたみ椅子を並べましょう。そうそうプログラムはいつものようにイギリスの曲3曲「ロンドンデリー・エア」「グリーンスリーブス」「春の日の花と輝く」から始めましょう。次に「ブラジル」と「菩提樹」それから映画音楽をいくつか。休憩を挟んで、大川さんご夫婦にベートーヴェンの「春」をまず演奏していただきましょう。大川さんはまだヴァイオリンを本格的に始めて1年ほどですが、この日のためにこの曲を何度も奥さんと練習されたそうです。それから大川さんの奥さんがピアノ独奏でショパンを2、3曲演奏してくださるそうです。そのあと秋子のクラリネットの独奏があって、最後に映画音楽を数曲して終わりということで、最後はお客さんにリストから曲を選んでもらおうかなと思っています」
「そうですか、楽しそうですね。私も観客として客席でじっくり聴かせていただきます」
小澤病院のロビーコンサートは月1回開催されていて10回目であったが、毎回固定客がいて前半が終わらないうちに客席はすべてが埋まった。いつも通り、小川の司会でコンサートは始まった。
「みなさん、こんにちは。今日も吹奏楽と弦楽器のアンサンブルで皆さんのよく知っている曲を聴いていただきます。いつもなら、ピアノはないのですが、今日は特別にゲストを招いていますので、ヴァイオリンとピアノの演奏も聴いていただきます。それでは初めは皆さんのおなじみになりましたイギリスの有名で心にいつまでも残る名曲を3曲聴いていただきたいと思います。「ロンドンデリー・エア」「グリーンスリーブス」「春の日の花と輝く」です。今日は最初にピアノ独奏の導入があってアンサンブルの演奏に入って行きますので、より楽しんでいただけると思います。それではごゆっくりとお楽しみください」