プチ小説「映画とともに」

淀川はクラーク・ゲーブル主演の映画「先生のお気に入り」を見終わると、時計を見た。
<もうすぐ午後10時か。面白い映画だったので、時間が経つのを忘れて見入ってしまったな。両親の健康がすぐれず、しばらくは自宅待機が必要になった。それで休日は昔から見たかった映画を見ているんだが、尽きることのない泉のように見たい映画が出てくる。そもそもぼくが映画を見始めたのはいつのころだったんだろう。そうだ中学2年の頃にラジオ大阪の深夜放送「バチョンと行こう」という番組の中で浜村淳さんの映画解説を聞いてからだったと思う。最初に映画館で見た映画はチャールズ・ブロンソン主演の「シンジケート」だった。内容はどうだったか覚えていないが、当時は、「うーん、マン○ム」というCMで、ブロンソンを知らない日本人はいないほどだった。それで浜村さんの映画解説で興味を持ち思わず見に行ったのだろう。映画館で見た映画で印象に残っているのはやはり「燃えよドラゴン」だろう。口コミで面白い映画だと聞いて、上映されている梅田グランドという映画館に行くと入口から人があふれていた。仕方なくその後ろについて30分ほどしてブルース・リーのアチョーを聞くことができたが、ずっと立ち見だったのを覚えている。他には弟とOS劇場に見に行った「パピヨン」が印象に残っている。中学時代は小遣いをためて映画をよく見に行ったが、高校時代はクラブ活動にお金がかかり、洋画は専らテレビで見ていた。当時は、毎日放送は月曜日、朝日放送は日曜日、関西テレビは金曜日、読売テレビは水曜日に2時間の枠で質の高い映画を放送していた。またNHK教育テレビも日曜日に1940〜50年代の名画を放送していた。「荒野の七人」「大脱走」「禁じられた遊び」「汚れなき悪戯」「旅情」「太陽がいっぱい」「冒険者たち」「荒野の用心棒」「ダーティハリー」「グレン・ミラー物語」「愛情物語」等々、これらの映画がぼくに及ぼした影響は計り知れない。その一番はやはり西洋文化への強い憧れだろう。でも今まで一度も海外に行ったことがないのだから、その時の映画を見て、ヨーロッパやアメリカのことを知り尽くしたと思い込んでいるのかもしれないな。そんな人々の生活を地味に描いた映画や脚本がすぐれた映画やアクション映画に親しんだぼくにとっては、スケールの大きなSF映画やお化け屋敷のような怖い映画は異質で受け入れられず、文学の世界に傾倒して行ったのだった。それでもクラシック音楽が出てくる、「オーケストラの少女」「未完成交響楽」なんかはたまにVHSビデオで見ていたかな。映像の美しさや脚本のすばらしさで、「第三の男」が一番と決めつけていたんだが、今回、20本ほどの映画を見て、まだまだぼくが知らない名画があるということがわかった。やっぱり、ヒッチコックは凄い。この1ヶ月ほどで、「知りすぎていた男」「ダイヤルMを廻せ」「北北西に進路を取れ」「サイコ」「めまい」「裏窓」を見たが、いずれも最後まで緊迫感が持続する素晴らしい作品だった。ミュージカル映画も前から見たかった3つの作品を見た。「ウェストサイド物語」「王様と私」「南太平洋」だが「トゥナイト」「ハロー、ヤングラヴァーズ」「魅惑の宵」は思わず一緒に口ずさんでしまった。そうそう見たかった映画の中にはジェームズ・スチュワートの作品が多かったな。やっぱり「グレン・ミラー物語」でファンになってから、「翼よ!あれが巴里の灯だ」を見て、他の作品も見たいと思っていた。ヒッチコックの「知りすぎていた男」「めまい」「裏窓」の他に「素晴らしき哉、人生!」「スミス都に行く」もいい映画だった。ジェームズ・スチュアートが「アメリカの良心」と言われたのがよくわかる映画だった。そう言えば、最初の印象が良かったのか、ブロンソンの映画はよく見たなぁ。「荒野の七人」や「大脱走」はスティーブ・マックィーンに興味があったのではなくて、ブロンソンに興味があったからだ。日本語の吹き替えをバカボンのパパの声もしておられた雨森雅司さんがされていたというのも好印象に繋がったのだろう。吹き替えと言えば、山田康雄さんの声は魅力的だ。アニメの主人公もいいけれど、やっぱり「ダーティハリー」や「荒野の用心棒」のクリント・イーストウッドが際立っている。他にはマックィーンの内海賢二さんやアラン・ドロンの野沢那智さんも心に残る声だ。アラン・ドロンと言えば、「太陽がいっぱい」があるが、この映画と同じようにアラン・ドロンが演じるのはヒーローというよりも暗い影を持つ二枚目というのが多かった。それまでは悪役にはハンサムな人はいなかったのにアラン・ドロンは新境地を開いたと言えるんじゃないだろうか。そう言えば、アメリカ映画以外にも、いい映画がたくさんある。「汚れなき悪戯」(西)「惑星ソラリス」(露)「ひまわり」(伊)なんかはテーマ曲も心に残るし本当にいい映画だと思う。イギリスの名優にピーター・オトゥールがいて、「チップス先生さようなら」は大好きな映画だが、ジェームズ・スチュワートのようにいい作品に恵まれなかったのが惜しい気がする。「アラビアのロレンス」「ラ・マンチャの男」など映画史に残る作品で主役を演じているが、はまり役とは言えないんじゃないだろうか。チップス先生のような役を演じるオトゥールが見たかった気がする。フランク・キャプラの「スミス都に行く」と「素晴らしき哉、人生」が良かったので、同監督の「オペラハット」と「或る夜の出来事」を購入することにした。それとゲイリー・クーパーとソフィア・ローレンが共演した「ナポリ湾」もだ。もうそろそろ。宅急便が来てもいい頃なんだが...。(ピンポーン)ああ、今、行きます、3,452円ですね>