プチ小説「青春の光68」


「は、橋本さん、どうかされたんですか」
「やあ、田中君、われわれの出番はもうないと思って、荷造りをしているところなんだ」
「なにをおっしゃるんですか。船場さんも日の目を見るまでには10年かかるかもしれない。それでも頑張るので、宣伝よろしくお願いしますと言っていたじゃないですか」
「まあ、そういうことを言っていたかもしれないが、こうなにもないとどうしたらいいか」
「船場さんご自身もプチ小説を書かれるだけでなく、ネタづくりのため、クラリネットの練習に励み、最近は市民マラソンで10キロ走ると言われ、ジョギングに勤しんでおられます」
「そうなのか。船場君がそれほど頑張っているのなら、たとえ...」
「たとえ、なんですか」
「たとえ、日の目を見なくても」
「いえ、それはいけません。いつか日の目を見ることができるんです。言い直してください」
「たとえ、下手な鉄砲が当たらなくても」
「なにをおっしゃるんですか。いつかは当たると信じるんです。言い直してください」
「たとえ、意志があっても、どうにもならないことがあるにしても」
「ダメです、そんな悲観的なことを言っては、船場さんが気を悪くされますよ」
「じゃあ、田中君は私にうそを言えと言うのかい」
「場合によってはそれも必要でしょう。小さな嘘はしばしば大きな禍根を残すことがありますが、大きな嘘は爆笑を引き起こして終わりです。大きな嘘は大法螺と呼ばれて、真剣に捉えられないですし、大きな宣伝効果を生むことがあるのです。ただし混乱を招かないように注意することも必要でしょう」
「なるほど。それなら、宣伝効果のある大法螺を吹いてみることにしよう」
「ありそうもないこと。これが大切ですよ」
「そうだなー、じゃあ、こういうのはどうかな。船場弘章が、2017年1月22日に行われる、高槻シティハーフマラソン10キロコースにエントリー、1時間を切ることを目標に頑張ると抱負を語った」
「なるほど、船場さんは必至で走って11キロを1時間半ですから、大法螺と言えますね。でもそれでは、われわれがしなければならない、『こんにちは、ディケンズ先生』『こんにちは、ディケンズ先生2』の宣伝になっていません」
「そうなのか。難しいなぁ」
「昨日、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受諾したとのニュースが流れました。もしかしたら、イグノーベル賞の文学部門ができたら、船場さんの本もユーモアたっぷりですから、受け入れられるかもしれません」
「ふーん、そういう感じでやればいいんだな。それではこういうのは、どうかな船場弘章の『こんにちは、ディケンズ先生』が今年の...」
「今年の」
「九州場所殊勲賞を受賞!!!」
「うーん、確かにありえないことですが...。まっ、次は頑張ってください」