プチ小説「たこちゃんの新春」

ア ハッピー ニューイアー  フェリス アーニョ ヌエヴォ  プロージット ノイヤー というのは新年あけましておめでとうのことだけど昨年は身内に不幸があったりして、ぼくにとって決してよい年とは言えなかった。それでも自著『こんにちは、ディケンズ先生』『こんにちは、ディケンズ先生2』が京都大学の図書館に入った。また年4回東京阿佐ヶ谷の名曲喫茶ヴィオロンで行っているLPレコードコンサートも12月の開催で59回となり、今年3月で60回となる。長年、心の支えとなってくれている、西洋文学とクラシック音楽に対して少しは実績ができたのかなと思っている。思えば、18才で某高校を最低の成績で卒業した時には、自分の人生がどうなることかと思った。そうした時に励ましてくれたのが、2つの交響曲、ミュンシュ指揮パリ管弦楽団のブラームスの交響曲第1番とストコフスキー指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団のチャイコフスキー交響曲第5番だった。まったくそれまでクラシック音楽に興味がなかったのにこの2曲はすんなりぼくの心に浸透して行った。よりどころ(すがる藁)となる何かを渇望している時に、ラジオのクラシック番組を聴くとたまたまかかっていたのだった。それから40年近くになるけれど、今でもこの2つの交響曲は色褪せていない。ディケンズも浪人時代からの長い付き合いなんだ。『デイヴィッド・コパフィールド』『大いなる遺産』『二都物語』「クリスマス・カロル』を新潮文庫で、『オリヴァ―・トゥィスト』を講談社文庫でわからないながら、読んだことが始まりだった。7、8年前に仕事が始まる前に時間を作り、会社近くの喫茶店でディケンズの長編小説を全部読むことにしたが、最初は、それに関連した小説を書こうなんて考えていなかった。ホームページに少しずつ、ディケンズとぼくの分身である主人公との対話の小説を書いているうちに極々自然に出版することになった(たまたま、以前、読売新聞に掲載されていた近代文藝社の広告を思い出し、評価をお願いしたのだった)。レコードコンサートと同様に2年後にはぼくも60回目のアニバーサリーが待っているが、まだまだやりたいことはある。1月には、22日に高槻シティハーフマラソンの10キロに出場(ゼッケンN93)するし、これを足掛かりにして、2、3年後にはハーフマラソンに挑戦したい(制限時間が問題なんだが、週3回走っていれば、何とかなるだろう?)。29日にはクラリネットの発表会があり、先生と大学時代にブラスバンド部で活躍されていた男性と3人で、ワーグナーのローエングリンからエルザの大聖堂への行列とポール・モーリア編曲のエーゲ海の真珠を京都府民ホールALTIで演奏(午後1時頃を予定)することになっている。多分、1月は、仕事やこの2つの行事であっという間に過ぎ去ってしまうだろう。3月のLPレコードコンサートは第60回の節目なので、サイン入り(実はまだ3回したしたことがないし希望者がいるかどうかわからないが)自著のプレゼントやクラリネットの演奏を考えているが、マスターの了解を得なければならないだろう。それから忘れてならないのは、今年のディケンズ・フェロウシップの秋季総会が東京大学で開催されることだ。2011年の秋季総会が京都大学で開催された時に初めて参加したのだが、末席であれディケンズ・フェロウシップの会員であることに誇りを持っていいのではないかと思う。雲の上の大学の先生と懇親会や二次会で話ができるし、いろいろな大学を学会会員として訪問できるのだから。そんなことを考えながら、元日の朝、初日の出を見ようと淀川の堤防を走っていると見慣れたスキンヘッドの運転手の後姿が見えてきたぞ。「おはようございます」「オウ フェリス アーニョ ヌエヴォ」「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。ところで、なぜ鼻田さんがここにおられるんですか」「それはやなー。毎年、ここで初日の出を見てから、伏見稲荷にお参りに行くことにしてるんや。あんたは何で、ここにおるんや」「実は、一昨年の12月からジョギングを始めていて、ここはそのコースなんです。いつもは立ち止まる人がいないのですが、今日は100人近くいるんじゃないですか。びっくりしました」「そうかー、あんたはうさぎとびやリアカーごっこに飽き足らず、ジョギングまでも始めよったんやな」「まさか、五十肩が酷くて、なんとかしようとしたのがきっかけです。山に行かなくなって、運動不足になったのが原因でしょう」「なるほどなあ、で、フルマラソンはいつ走るんや」「そ、それは今のところ、予定はありません。それより、日の出が始まりましたよ。手を合わせなくていいんですか」「おおそうやった。むにゃむにゃむにゃ」「ああ、何か願い事をされたのですね」「そうやで、家内安全とあんたの本が売れるようにと祈ったんやで」「ありがとうございます」「それから、このデジカメでお日様とわしが並んで写るように撮ってくれへんか」「いきますよー、カシャ」「よし、そしたらなー、この写真できたら、また船場はんが駅前のタクシー待合に来た時に渡すから、大切にするんやでーーー」「なんでですか」「ええか、これはダブル朝日と言うてな、ありがたーーーい写真なんやで、大切にせんと、罰が当たるでぇぇぇぇぇ」「罰が当たるだけなら、いりません」「いや、きっとご利益があるから、大切にするんや。人の親切を有難いと思うて受け入れることが、大切なんやで」「よくわかりました」