プチ小説「青春の光69」

「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「一年の計は元旦にありというから、今年のことをどうするか考えているんだ」
「なるほど。船場さんの本を売るための営業活動で使用する全身に塗る金粉を5千円のにするか、1万円のにするか。はたまた顔を白塗りにする粉を薄力粉にするか、メリケン粉にするかということですか」
「そうそう、金粉はお金がかかるから困るんだ。それから薄力粉じゃないとかぶれるんだ。よくご存じで。...。いや、そうじゃないんだ」
「じゃあ、画期的なことを考えたとか。例えば...」
「例えば...」
「○下大サーカスに入門して、技を身につけ、派手に街頭で宣伝するとか。綱渡り、一輪車の曲乗り、空中ブランコ、ジャグリング、玉乗りなんかは受けると思いますよ」
「確かにそうだが、わしは空手はするが、器用な方ではない。田中君とふたりでそれぞれ一輪車に乗り、『こんにちは、ディケンズ先生』をよろしくと書かれた横断幕の端をもってぐるぐる回れば、宣伝効果は抜群でやんやの喝采を受けられるだろうが、残念ながらわしは自転車にも乗られない」
「そうですか。では、どんな風に宣伝されるのですか」
「まずは、年初は初夢というのをネタにしようと思うんだ。田中君は一富士二鷹三茄子というのを知っているかな」
「そりゃー、もちろん知っていますよ。夢の中に登場すれば、その年一年いい年になるということですね」
「そうだ。普通なら、富士山を見たとか、富士山に登ったとか。鷹を見たとかということになる。でも茄子というのはシチュエーションが描きにくいのだが...」
「よく言われるのは、野菜が出てくる夢ならば何でもいいということですが、まあ余り細かいことは言わなくていいでしょう。お正月なんですから」
「それもそうだな。ところでいい年にしたいというのは誰でも願っていることだから、このご利益のある夢がちょっとした工夫で相乗効果が得られるなら、やってみる価値があると思うのだが」
「ふーん、それはどんな工夫ですか」
「この3つのアイテムが一度に登場する夢が見られたら、きっと幸福な1年になるだろう」
「例えば、ど、どんな夢ですか」
「ひとつは、鷹が天秤竿の両端に茄子がいっぱい入った籠を下げて富士山に登るとか」
「うーん、鷹が天秤を担ぐというのは無理があるんではないでしょうか。鷹はなで肩なので、天秤棒は肩に乗らないんではないですか」
「そうか。じゃあ、これはどうだ。鷹の夫婦が茄子の田楽を食べていると茶の間のテレビに富士山が映し出される」
「それも無理があると思いますよ。本来、鷹はしゃーっと飛ぶもので、天秤を担いだり、炬燵に入ってテレビを見たりはしないものだと思います」
「よしっ、なら、鷹をしゃーっと飛ばせるぞ」
「うわー、どんなんだろう」
「鷹がしゃーっと飛んできて、籠の中から茄子を、茶の間から茄子の田楽を奪い取ると富士山目掛けて飛んで行った」
「まあ、あんまり変わらないと思いますが、少しよくなったと思います」
「よし、じゃあ、これから船場君のところに行って、今晩はこの夢を必ず見るように伝えることにしよう。やったー、これで船場君の未来は明るいぞー。ランランラン」
「......」