プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 二兎追うのはしんどい編」

わしがちいこい頃は、白熱電球を発明したエジソンや新大陸を発見したコロンブスちゅーのは偉人と呼ばれて、少年少女向けの伝記がぎょうさん出とった。内容はよう覚えとらんが、偉人はとにかく思い込んだら、まっすぐに集中して、ひとつのことをあーでもないこーでもないと試行錯誤し続けて、目的を達成したと記憶しとる。毎日の9割方は、白熱電球の発明や新大陸の発見のことしか考えとらんかったように思っとった。ところがわしが社会人になって自炊生活をするようになると、仕事もせなあかんし、自分で掃除、洗濯、食事の準備なんかをせなあかんしということで、自分の自由になる時間は1日に1時間程度しかないなと悟ったんやった。きっと昔は周りに支えてくれる人がようけおって、偉人さんが時間を作るのを助けたんやと思うんや。それから個人主義という言葉を都合のええように解釈をするようになってからは、支え合ったり交流するという言葉が後ろに下がってしもうた気がする。仕事ではプロジェクトを立ち上げて、大きな問題を解決することは一般的なことやが、創作活動については独創性を保持するためにひとりでごそごそやってるのが推奨されるようや。そういうことで、船場は毎日ごそごそしとる。1月に市民マラソンの10キロ走とクラリネットの発表会があるちゅーとったが、どないなったんか訊いてみたろ。おーい、船場、おるかー。はいはい、にいさん。第25回高槻シティハーフマラソンでは、10キロ走りましたが、1時間13分23秒で完走できました。それからクラリネットの発表会の方も、先生から今まで一番よかったとお褒めの言葉をいただいたんですよ。ほう、そうか、それは毎日、まっすぐ集中して練習したおかげやな。まあそんなに練習したわけではありませんが、にいさんはどんな練習をしたとお考えですか。それはやなー、例えば、通勤はジョギングの格好をしてクラリネットを持ち、走りながら折に触れてクラリネットを吹くとかやな、レッスンの時はいつもジョギングシューズを履いて、スキップをしながらクラリネットを吹くとかやな...まだかー。そんな、あほなことばかり言わんとってください。クラリネットはいつものスタジオで練習しましたし、ジョギングは週末に枚方方面に行き13キロほど走りました。地道に頑張ったんですよ。ほう、そうか。あれこれ同時進行させるのが効率よいちゅーとったんは船場やなかったか。そら、豆炊いて、洗濯機廻して、掃除機をかけるということは可能ですが、掃除機をかけながら、料理や食器の後片付けをすることはできないでしょう。クラリネットとジョギングも同じことですよ。ほんでも船場は、本書いて、クラリネットのレッスンを受けて、登山をやめたと思うたらジョギングを始めよった。どれか一つにしたら、もっと成果が上がるんとちゃうか。今の状況を見とるとどれも中途半端やと思うで。まあ、そうかもしれませんが、ぼくは生来飽きっぽい性格なので、エジソンやコロンブスのように目的達成まで一つのことに集中できないんです。というか、最初から達成困難と思っているのかもしれません。それなら趣味の範囲内で頑張って、瓢箪から駒が出てくれればラッキーと考えた方がよいのではないでしょうか。それもひとつの考え方やが、ぱっと花開いて、脚光を浴びるのも悪くないと思うで。それはそうですし、チャンスがあればと思っています。人の人生は人間の力ではどうにもならないことがいくつかあります。だから人事を尽くして天命を待つという格言ができたのだと思います。まあ、あんたがそない言うんやったら、わしもやいのやいの言わんとくわ。