プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 トランペット編」
わしは中学生の時に深夜放送でニニ・ロッソの「夜空のトランペット」を聴いてその金管楽器特有のメリハリのある音とロッソの哀愁のあるトランペットの音色に引かれて、トランペットちゅー楽器が大好きになった。そうは言うても、ロッソが2つ目のヒットを放つことがなかったんで、学生の頃はジャン・クロード・ボレリーやジョルジュ・ジューバンちゅーフランス人のトランぺッターが演奏するムード・ミュージックをたまにFMラジオで聴く程度やった。社会人になって、ジャズに興味を持ち始めて、マイルス・デイヴィスが演奏する、「枯葉」「ラウンド・ミッドナイト」「イフ・アイ・ワー・ア・ベル」を聴いてからは、その反動のようにジャズのトランペットの名盤ちゅーのを追い求めたんや。ジャズは雑誌だけやなく、興味津々の単行本もよーさん出とるから、クリフォード・ブラウン、リー・モーガン、チェット・ベイカー、ケニー・ドーハム、ドナルド・バード、アート・ファーマーなんかのレコードが欲しくなって買い漁ったもんやった。そやけどなー、わしみたいな俄かジャズ・ファンは、熱するのも早いけど冷めるんも早い。アドリブちゅーのがよう理解できんわしのような素人は、なかなかのめり込めんかったんや。それでもリー・モーガンやチェット・ベイカーの演奏は、音を聴いてるだけでも楽しいからジャズ音楽鑑賞は続けられたんや。ピアノ、ベース、ドラムのリズムセクションや共演のホーン奏者の名前や名盤と呼ばれるレコードを覚える頃にはわしも人並みにジャズが理解できるようになった。未だにトニック、ドミナント、サブドミナントと言われても、何のことかさっぱりわからんわしがジャズ聴いていてもええんかしらと思うんやが、わしは音楽ちゅーのは音を楽しむもんと思うとるから、あんまり難しいことは言わんといて、ジャズは好きな曲を聴いとこちゅー感じや。船場は長年入手できんかったトランペットの神様のCDを入手したと喜んどったが、最近どうしとるんやろ、おーい、せんばー、おるかー。はいはい、にいさん、それは、モーリス・アンドレがオペラの名曲をトランペットで演奏した、”ARIS D' OPÉRAS CÉLÈBRES”というCDのことですね。レコードは発売されてすぐ1978年に購入したのですが、20年前にCDが日本で発売された時は、買いそびれて最近になってようやく中古CDを手に入れたんです。ほう、ほたらずっとこのレコードを聴き続けているちゅーことかいな。ええ、そうです。特にレコードのA面に当たる最初の5曲はよく聴きました。それが嵩じてトランペットを購入してしまったのですから、どれほどこのレコードに惚れ込んでいるか...。トランペットを購入したちゅーて、あんたはクラリネットを8年以上習っとるんやろ。もちろん今はクラリネット一筋ですが、今から39年前には、このレコードを聴いて、自分もこのアンドレのように吹ければいいなと思ったのです。それほど素晴らしい選曲、演奏のレコードなのです。で、何でトランペットやめたんや。半年ほどしてローレライが吹けるようになったのですが、半音(♯や♭)が入った曲が全く吹けませんでした。限界を感じていた時に、すぐそばの国鉄の独身寮の屋上でトランペットの下手な人がぷうぷうやりだしたのです。結構大きな音で、やはり騒音と言われても仕方がないなと思いました。それで近所迷惑なことはやめようと思ってやめました。ただあまり大きな音が出ない他の楽器(クラリネットもわりと大きな音ですが)で演奏したいというのはずっと思っていて、キーボードやオカリナを買ったりしましたが、クラリネットのように楽譜を購入して練習するするまでには至りませんでした。ついこの間、このアンドレのCDをクラリネットの先生に聴いていただいたのですが、興味を持っていただいたようで、トランペットで吹けなかったこのアルバムの曲「君はわが心」(レハール「ほほえみの国」から)、「清らかな女神よ」(ベルリーニ「ノルマ」より)を発表会で吹けるかもしれません。そうか、そんなに君が願うとるんやったら、わしも応援したるから、初志貫徹するんやで、ええか。もちろん私も望むところです。