プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生314」

小川と深美は午前11時に図書館前で待ち合わせていたが、小川が10分前に3階の閲覧室から下りていくと深美はそこに来ていた。
「お待たせしたかな」
「そうねー、5分くらいかな」
「お昼はどうする」
「せっかく、お父さんがここに来たんだから、ひとみのオムライスがいいんじゃないかしら」
「そりゃー、安上がりでいいけど、深美が望むんだったら、河原町に出て食事をしようかと思っていたんだ」
「ふふふ、無理しなくてもいいわよ」
「で、セミジャンボやジャンボを食べようってわけじゃ」
「まさか。でも、お父さんがいつものようにセミジャンボを食べるというのなら、止めはしないわ」
「よーし、それじゃー、セミジャンボを食べてから、円山公園につきあってくれないか。その後は出町柳の名曲喫茶柳月堂でウラッハのクラリネット五重奏曲でも聴くか」
「いいわ」

小川と深美は八坂神社を通り抜け円山公園に入ると枝垂桜の横を通り抜け、奥へと入って行った。途中、小川は売店で缶ビールを数本買った。
「お父さん、こんな昼からお酒なの。花見のシーズンでもないし、わたし、未成年なんだし、勘弁してほしいわ」
「いや、そうじゃないんだ。これは飲むんじゃないんだ。飾りというか。おお、あそこにベンチがある。あそこに座ろうか。こうしてここに並べて、いかにもほろよいの観光客のように見せかけてと」
「わたしをここに連れてきたのは、何かわけがあるの」
「まあ、それより、深美、学校の方はうまく行っているのかい」
「まずは、無難な話題からということかしら。そっちのほうは心配ないわ。ピアノの練習もきちんとしているから大丈夫よ」
「じゃあ、そろそろ、本題に入るとするか。ところで深美は大学に入って、ディケンズ先生を勉強すると言っていたけれど、どんな具合だい」
「何か、謎めいた質問ね。わたしはディケンズを研究するんじゃなくて、一人の読者として、ディケンズ先生の1ファンとして本を読んでいくつもりよ。だからそこは、お父さんとまったく同じだけれど、数年イギリスで暮らしたことだし、少し英語ができるから、原文でもディケンズ先生を読んでみようと思っているの。『クリスマス・キャロル』はもう読んだけど」
「なるほど。ところで、深美は、超常現象とか世の中の不思議なことはどのように考えているのかなー」
「どうしたの、急に笑顔になったりして。まあ、とりあえずは、その人のいうことを聞いて、体験してみて、これはもっともだと思ったら」
「もっともだと思ったら、どうするの」
「認知するわ」
「よーし、それじゃあ、今からお父さんがすることを冷静に見て、判断してくれ」
「でも、あんまり変なことはしないでね」
「......」