プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生323」
小川は翌日、秋子、ベンジャミンとともに高尾山に登ることになっていたので、いつもより早く布団に入った。しばらくすると夢の中にディケンズ先生が現れた。
「ああ、先生、お久しぶりです」
「おほん、こんちは」
「あれ、先生、どうされたんですか。いつもと様子が違うようですが...」
「そらそうさ、これから私は小川君にお説教をせねばならんからな」
「えーーーっ。なぜですか」
「小川君、君はピクウィックのことをどう思っとるのか」
「そ、それは歌劇「大いなる遺産」の台本を作成するにあたり、楽曲のインスピレーションを与えていただけると...」
「他にはどうかな」
「私には音楽的な素養がないものですから、そのあたりをご指導いただけたらと...」
「それから」
「ディケンズ先生の小説に共鳴され、愛読されている読者には、ピクウィック氏が見え、3者会談も可能であるということなのでいろいろと...」
「なるほど。それで、小川君はピクウィックをどのように活用しようと思っているのかね」
「歌劇「大いなる遺産」を制作するにあたり、大川さんと3人で話し合ったりできるんじゃないかと」
「いや、それは無理だ。君にとって大切な友達だが、大川は私の小説の愛読者ではないから、ピクウィックを共有することはできない」
「そうなんですか。ちょっと残念です」
「まあ、そんなにくよくよしなさんな、いつか彼らも私の小説に興味を持ってくれるかもしれないから。それよりもっと大切なことがある」
「何ですか」
「同じことを言わせないでくれ」
「あっ、そうでしたね。他には大川さんは無理でも、秋子さんやベンジャミンさんとの同席は可能なようなので、歌劇「大いなる遺産」に関して、4人で有意義な会話ができるんじゃないかなと...」
「結構なことだ。だが、それとも違う、この前、ベンジャミンと会った時に何か言わなかったかね」
「ああ、思い出しました。ピクウィック氏が世間に知られるといいなと言ったかな」
「いや、それならまだましだ。私の本を読んでくれた読者が、その中の登場人物に親近感を持ってくれるのはいいことだ。だが小川君はそうではなく、人気キャラクターのように売れ出して、●ッコちゃん人形のようにみんなが息を入れて膨らませ、上腕に取り付けて銀座や渋谷を歩けばいいと思っているんじゃないのかね」
「うーん、否定はしません。そう思ったことは事実です。でもそれは難しいでしょう」
「なぜだね」
「それは息を吹き込むという行為があるからです。人が口をつけたところに別の人が口をつけるというのは衛生的に...」
「まあ、そんなことはどうでもいい。要はピクウィックに間違った役割を果たさせるのは慎んでほしいということなんだ」
「......」