プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生327」
ピクウィック氏を歩かせるわけにはいかないので、小川の荷物を大川が持ち、小川がピクウイック氏を抱っこすることにした。大川は、小川の様子を見ながら3人のディケンズ・ファンに問いかけた。
「小川さんはピクウィック氏をポケットにしまうより登山のお供にされるということですが、ぼくには何も見えません。道行く人にももちろん見えないでしょうが...。なんだかぼくひとり仲間外れにされているようで、いい気分ではありませんね」
「でも、あなた、『ピクウィック・クラブ』を読んでいないと、道行く禿げ頭の紳士でしかないから、ピクウィック氏がお供を連れて水戸黄門のように全国行脚したとか言われてもわからないでしょう」
「アユミ、ソレはチョットチガイマス」
「風車の弥七のようなサム・ウェラーが加わり物語がおもしろくなったとか、そのためにうっかり八兵衛のようなポジションだったでっぷり小僧の影が薄くなったとかの話題についていけないでしょう」
「ソレモチョットチガイマスガ、アユミが言うことはマトをエテイマス。ソンナフウニディケンズの小説にはツッコミを入れたくなるカショが山ほどアルノデスガ、それには少しはディケンズの小説をヨンデモラワナイト困るノデス」
「なるほど、話題について行くためには小説を読んでおく必要があるのですね。ではそれはどの辺までの知識が必要なんでしょう。認定試験なんかがあるんですか」
「ワタシとオガワはすべての長編小説を読んでいますが、アキコとアユミはドウデスカ」
「私は小川さんに勧められて、順番に言うと『大いなる遺産』『二都物語』『デイヴィッド・コパフィールド』『オリヴァー・ツイスト』『リトル・ドリット』『荒涼館』『ピクウィック・クラブ』『我らが共通の友』『骨董屋』は読んだけれど、『ニコラス・ニクルビー』『バーナビー・ラッジ』『マーティン・チャズルウィット』『ドンビー父子』『ハード・タイムズ』は大部であることや、内容が難しいということで読んでいません」
「そうなのか、秋子さんはこつこつディケンズ先生の小説を読んでいたんだね。で、アユミさんはどうなんですか」
「私は、秋子とほとんど同じね。でも『骨董屋』は辛い話だから、読んでいないわ」
「ヤハリソウですね。まずドナタも読まれるディケンズの小説としては、イギリス文学の金字塔と言われる『大いなる遺産』、世界中でたくさんの人に読まれている『二都物語』、登場人物が生き生きと描かれている『デイヴィッド・コパフィールド』、社会派としての面目躍如『オリヴァ―・ツイスト』の4つは押さえたいトコロデス。それから読めば読むほど、カメバカムホド面白い『荒涼館』『リトル・ドリット』は是非読んでほしい小説です。そしてやはりディケンズが精魂傾けて書き上げた最初の小説『ピクウィック・クラブ』はアラケズリではアリマスガ、ゼヒヨンデイタダキタイデス」
「なるほど、ぼくもベンジャミンさんと同じ意見ですが、『骨董屋』『我らが共通の友』なんかはどうなりますか」
「ワタシハ、『骨董屋』が書かれた時に、読者がヒロインネルを不憫に思ってたくさんの手紙が寄せられたとキイテいます。そのハナシでわかると思うのですが、ディケンズは自分が創造した登場人物がドレホド読者を夢中にさせるか、実在でない人物に対して読者がイレコムことができるかジッケン👅のだと思います。ナノデ今落ち着いてヨンデミルとネルが気の毒なくらいひどい目に遭います。ネルが不憫で...ウウッ...。スキデハアリマセン」
「そうなんですか、では『我らが共通の友』はどうですか」
「この小説を書いた時のディケンズのカンキョウがそれまでと大きく違っていることに注目すると、今までとオモムキが違っている理由もわかると思いますが、ディケンズらしくない、ちょっと軽めの小説とイエルデショウ。それから他の5つの小説についてはアキコの言う通りですが、ワタシハオガワとワタシを結び付けてくれた『ニコラス・ニクルビー』もダイスキデスヨ」
「そうなんですね。ではディケンズ初心者のぼくとしては、『大いなる遺産』は読んだから、『二都物語』を読んでみることにします。どのあたりでピクウィック氏のお姿が見られ、ディケンズ・ファンとして認定されるのかが楽しみです」