プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生328」

大川はベンジャミンの話を聞いて、精進すればディケンズ・ファンとして認定され、ピクウィック氏の姿も見ることができるということがわかり、すっきりした気分で山登りを続けられるようになった。
「小川さん、ところでぼくはピクウィックさんと話ができないわけですが、他の方たちとはいつも通り話ができます。会話に参加できない場合は、スクワットでもやりますから、ぼくのことは気にしないでください」
「大川さんのお言葉に甘えて、今日はピクウィツクさんから小川さんに歌のレッスンをしてもらうことにしますが、そばにいていただくのは問題ないと思います。なので、この辺で一服して、ピクウィックさんのお話を聞きませんか」
「オウ、ワタシモアキコに賛成です。アユミはドウデスカ」
「わたしも興味津々。どんな話をされるか楽しみだわ」
「ぼくもどんなレッスンが受けられるか楽しみですが...。ねえ、ピクウィックさん、みんなもこのように期待していますので、ご挨拶をお願いします」
「わかりました。それではみなさん、今日は小川さんの音楽センスを向上させるためのささやかな会にご参加いただき、ありがとうございます。わたしもみなさんのご期待に沿えるよう頑張るつもりです。ベンジャミンさんは音楽を教えておられるので、わたしのやり方に疑問を持たれるかもしれませんが、教える人それぞれのやり方があると考えていただき、お付き合いいただけるとありがたいです。わたしのやり方はズバリ、スタミナ式です」
「スタミナ式???」
「ではなくて、スパルタ式です」
「新宿の飲食店でスタミナ丼をばんばん食べるというのではないのですね。それもいいかなと思いましたが...。では、どんなふうなことをするんでしょうか」
「まずは基礎体力を充実したものにさせる、身体を鍛えるというところから始めます。今日は高尾山の山頂まで全力疾走することにしましょう。ただし、わたしは迷子になったら困るので、秋子さんと一緒に徒歩で登ることにします。わたしたちが到着するまでに少し時間があると思いますので、それまで歌の練習をするなりプロレスごっこをするなりしていてください。では、秋子さん、よろしくお願いします。アユミさんのご主人はどうされます」
「あなた、ピクウィックさんは小川さんをわたしたちのように武闘派の音楽家にさせたいみたいよ。全力疾走で頂上まで行くように言われているわ。1年たったら、小川さんは歌もうまくなるかもしれないけど、レスラーとしてもデヴューできる体力を身に着けているかもしれないわ」
「そうか、もしかしたらそれが本当のところの目的だったのかもしれない。小川さん、中年になってから体力が落ちてきているようだし。でも今から頑張れば、きっとわれわれのように学生の頃の体力を維持できると思うな。一年後に小川さんにジャーマンスープレックスホールドをかけてもらえたら、すてきだろうなぁ。ぐぇっ」
「あなた、それより先にディケンズの小説を読まなければ🙅よ。ピクウィックさんと秋子は歩いて上がるけど、あなたはどうする」
「もちろん、走るさ。ベンジャミンさんも行かれますよね」
「オウ。ワタシモ最近ウンドウ不足でしたカラ、もちろん、オツキアイさせてイタダキマス」
「それじゃー、小川さん、頑張ってくださいよ。ベンジャミンさんもボートで鍛えたスポーツマンだし、大きく後れを取らないようにしてください」
「わかりました。でも、全力疾走で頂上まで行ったら、歌う気力も体力もなくなっているんじゃないかなぁ」