プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生335」
アユミは大川から、小川がピクウィック氏の指示に従わず、ソルフェージュのレッスンを拒んでいると聞くといきなり小川の腕を後ろで固めて、人間風車の大技を放った。
「ひやー、な、何をするんですか」
「お前を改心させるためにみんなで高尾山に来たというのに、なんだ、その態度は。さあー、さっさとやるのよ」
「で、でも、僕は音痴だからできません」
「何を言ってるの。最初からちゃんとできるのは天才だけ、99%は努力のたまものなのよ」
「でも、これは最初ではありません。秋子さんと何度かやったけれど、うまくできなかったんです」
「じゃあ、私と一緒なら、いいでしょ。それドレミ、ドミソ、ドファラ、ソシレ。なぜ歌わない」
アユミはすばやく小川の頭をかかえベルトを掴み、小川を倒立させ、ブレーンバスターの大技を放った。小川は大の字になったまましばらく動かなかった。
「オガワ、ダイジョウブか。ダイジョウブなら、ソルフェージュをやってクダサイ」
「わ、わかった」
「さあもう一度、いくよ。ドレミ、ドミソ、ドファラ、ソシレ」
「ドレミ、ドミソ、ドファラ、ソシレ」
「よしよし、できたじゃない。次は自分で音を決めるのよ。最初の音はドでその後は自分で決めてね。それ、ドレミ、ドミソ、ドファラ」
「ドソシ、ドドド、ドミレ」
「駄目、駄目、音程がおかしいわ。もう一度ドレミ、ドミソ、ドファラ」
「ドレファ、ドミミ、ドソソ」
今度はアユミは目溢しすることなく、小川を高く持ち上げアトミックドロップを見舞った。
「オオ、スバらしい」
「オガワさん、僕もアユミからこんな大技を3つももらったことはありません。なんてあなたは幸せな...。ぐぇっ」
「小川さん、これは慣れればできるの。あなたやってみて、ドミソ、ドファラ」
「ドソド、ドレミ、ドミソ」
「そう、そんな感じでやってみて」
「ドソド、ドレミ、ドミソ」
「なかなかいいわよ。次の時にはもっとうまくやってね」
「それでは次に移りましょう。せっかくキーボードと楽譜を持ってきていただいたのだから、実際に小川さんに歌っていただきましょう。小川さんはいつもは鼻歌だと思いますが、今日は楽譜に忠実に歌ってください。伴奏はアユミさんにお願いします。小川さん、いいですか」
「あーあ、ええっ」