プチ小説「こんにちは、ディケンズ先生341」

小川は、帰宅して、秋子に今日あったことを聞きだそうとしたが、秋子はディケンズと一緒に気球に乗り、高尾山の頂上に言ったとしか言わなかった。小川は早く、ディケンズ先生と会話をしたかったので、それ以上訊かず、早めに床につくことにした。
「秋子さんから直接聞けなかったことをディケンズ先生から聞けるかもしれない。今日は全力疾走したり、プロレス技を掛けられたり、飛んだり跳ねたりの一日だった。きっと早く寝つけるだろう。スヤスヤスヤ」

小川が眠りにつくとすぐにディケンズ先生は現れた。
「先生、どうもご無沙汰しています。お元気にされていますか」
「やあ、小川君、こうして二人でゆっくり話ができるのは久しぶりだな。最近は、ピクウィックが一緒のことが多かった。それに歌劇「大いなる遺産」の話が多かった。私はオペラを見るのは嫌いじゃないから、大川からその話が出た時に面白がって、アユミさんをエステラ役で起用しろなんて、無責任なことを言ったりしたが、オペラの台本作りに戸惑っている小川君を助けないといけないと思ったんだ」
「確かにここのところ遅々として進まない台本作りをどうしようかと思っていました。でも歌劇「大いなる遺産」が完成できなくて、申し訳ないです」
「いやいや、今日、ピクウィックが説明したように、私の作品はオペラには向かないと思う。理由は、ピクウィックやアユミさんが言ったとおりだ。それより滞っている小説を完成させてくれ」
「それはもちろん頑張りますが。その小説はどのようなゴールを考えておられますか」
「それは小川君が考えればいいんだが、少なくともあと5話くらいは今の小説を続けてほしいな。ひとつの小説を完成させたら、きっと次の小説を書こうという気持ちになるから、その気持ちがなくならないうちに次の小説を書き始めることだ。今は相川に見てもらっているが、大川でもいいんじゃないか。相川には娘のことでいろいろ世話になることだろうから、小説は大川に頼めばいい」
「先生のお話だと、深美がまた相川さんの世話になるようですが」
「そうだ、深美ちゃんは大学を卒業したらすぐにイギリスに戻るが、京都のすきやんと離れ離れになるのが辛くて、小川君が大活躍しなければならなくなる」
「ああ、あの弁護士志望の男性ですね。桃香はどうですか」
「桃香ちゃんはお姉さんと違って、イギリスで音楽の勉強を続けるのだが、日本に帰って来ないので、小川君が様子を見に行かなければならなくなる」
「えーっ、僕は一生日本を離れることはないと思っていました」
「まあ、小川君にその気がないのなら、私の母国に来てくれとは言わないよ」
「おお、すみません。先生が生まれ育った国を一度は訪れたいと思っています。で、秋子さんはどうなんでしょう」
「それは小川君の心掛け次第だな。自分の力が及ばなかった場合に、どうしても秋子さんに負担がかかる。それが耐えられないほどになると病気になり...。せいぜい心を配って、大切にしてあげることだ」
「わかりました」
「それから、私と小川君との間に妙な不文律があって、私の作品を小川君が読まないと私が夢の中に出て来られないということがあったが、それはなくすことにしよう。小川君が望めば、私は現れるとしよう。それから音楽への興味は私もあるから、助言ができるかもしれないので、遠慮せずに言ってくれ」
「ええ、遠慮はしません」