プチ小説「太郎と志郎の夏休み5」

太郎が家の前にある空き地に行くと、梅男が網と竹籠を点検していた。おばさんは太郎と志郎の帽子を持っていた。網は持つところが木製でそこに直径30センチほどの金属製の枠が差し込まれ、白い網が付けられていた。籠は高さ30センチ、直径20センチほどの円筒形で、使い込まれて茶色になっていた。
「太郎は籠、志郎は網を持ちねー。わしゃーぁ、やすと水中メガネを持つから。川へはここから10分ほど歩くから」
おばさんはあたたかい笑顔で話した。
「今日も30度以上だと言っとったから、帽子を忘れんで。それからあぶねーところには行かんように」

見渡すとどこまでも続く田園地帯だったが、舗装された道路から横道に入り5分程歩いて畦道を5分程歩くと川に出た。堰があり、水田へと川の水が引かれていた。梅男の話によると、コンクリートでできた堰だったが、水量が多いため、至るところ窪みができていて、そのあたりにウナギやナマズが生息しているとのことだった。また堰を落ちる水が強く川底に当たるため川底が削られていて水深が深いので、堰の近くでは絶対に泳ぐなと言われた。
「堰の上は流れがゆるいから、そこで泳ぎねー、ちょいここで待ちねー」
そう言って、梅男はTシャツを脱いで、網と竹籠を持った。
梅男は流量が多い30メートルほどの幅の堰をゴム草履を履いて横切って行ったが、途中、何度か堰の窪んだ所に網を差し込み空いた手で水の中を攪拌するような仕草をしていた。それから素早く網を引っ込めると銀色の動くものを籠へと移した。2、3度それを繰り返して対岸に着くと同じことを繰り返して太郎と志郎がいるところに戻って来た。梅男は籠の中にある魚を見せて言った。
「ハエという🐟で体長も15センチほどだから、食べるところもあまりねえんや。わしはこれから、ウナギやナマズをとるから、お前らは堰の上(かみ)で遊んでいろ。籠は流されないように、川の水につけといてくれや」
「すごい、これ何匹いるのかな」
「おにいちゃん、すごいね50匹くらいいるよ」
「でもな、ハエはうもうねえんじゃ」
「美味しくない?」
「そう、じゃから、今晩のおかず、ウナギとナマズを今からとるから」
そう言うと梅男は近くにあるヨモギの葉を摘み取ると、それで一旦水につけた水中メガネのガラスの部分を擦った。梅男は水中メガネをかけるとやすを持ち、堰のあちこちの窪みに頭を入れてはやすを刺しながら、堰を横切って行った。

太郎と志郎が1時間ほど堰の上流で遊んでいると堰の方から、そろそろ帰ろうかと梅男から声がかかった。梅男は得意そうに言った。
「うまい具合にウナギとナマズがとれた。わしが後で料理しちゃるけぇ」

夕食は梅男が料理したウナギとナマズとおばさんが料理したハエの煮つけが出たが、料理について梅男から解説があった。
「ハエはワタがうまいわけでもないし、身もあまりねえから、お前ら、ウナギとナマズを食べりゃーええで。ウナギは脂がのっててうまかろうけど、わしゃー淡白なナマズの方が好きなんじゃ。お前らはどう思う」
太郎はどちらも初めて食べたので、ウナギもナマズも未知の美味だったが、ナマズの方が美味しいねと言った。梅男は今日一日の苦労が報われ、役割が果たせた気になって、胸を張った。