プチ小説「青春の光75」
「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「わしはどうもないが、船場君は6月18日の大阪北部震災で大変だったようだ」
「震度6弱だったそうで、しばらく余震が続いたようですね」
「余震は今日(7月1日)もあった。しばらくは予断を許さないようだ」
「船場さんは、震災当日は3時間かけて雨の中を歩いてお家まで帰ったと言われていますが、家の中はどうだったんでしょう」
「本やレコードの棚が多く、地震で棚から本やレコードが飛び出て散乱していたようだが、レコードが割れるなどの被害はなかったようだ。それでも今まではいつまでも今の状態を続けられるという漠然とした安心感があったのだが、震災を機に運が悪ければ、今までこつこつ積み重ねてきたものが一瞬にしてなくなってしまうかもしれないという漠然とした不安感を持つようになったと言っている」
「ふーん、だけどそれは誰もが同じ可能性を持っているわけだから、船場さんが今になって突然考えるというのは理解できないなあ。橋本さんだって、同じでしょ」
「私は田中君よりもどちらかと言うと船場君寄りかな。私は船場君の2つ上だが、船場君と同じように不安感があり、年を取って動けなる前に何かを残しておきたいという気持ちがあるんだ」
「でも、船場さんは、『こんにちは、ディケンズ先生』を2巻残していて、あと2巻は出版できると言われています。それで十分じゃないですか」
「いや船場君は以前から、本を出すにあたって2つのことをやり遂げたいと考えているのを知っているだろ」
「お世話になった、ディケンズとクラシック音楽に恩返しがしたいという考えですね」
「そうだ、『こんにちは、ディケンズ先生』にはその2つを取り込んでいるが、その後もあるんだ」
「その後もあるんですか」
「そうだ。ひとつは、船場弘章という名前をもっと知ってもらうために、プチ小説のいくつかを抜粋して出版することを考えている」
「プチ小説を流行らそうというわけですね」
「そうさ、意識の流れの小説もね。いちびりのおっさんさんのプチ小説、それからたこちゃんのもあるだろ」
「そうか、そこのええとこどりをして本にしようというわけですね」
「そう、そこまでうまく運んだら、次はプチ朗読用台本だ。ディケンズの小説のいくつかの名場面を朗読用台本にしたものだが、これを出版するためには、参考にさせていただいた翻訳の先生に了解を取る必要があるだろう。そのためには知名度があった方がいい」
「でそれから愛聴盤ですか」
「いやその前に長年書き綴って来た、「クラリネット日誌」も一部を何とか出版したいと船場君は言っていた。それから最後に彼が長年愛聴してきたクラシックの名盤を紹介したいとのことだ」
「そうなるとかなり長期計画となりますが、どのくらいの期間を考えているんでしょうか」
「まずは、『こんにちは、ディケンズ先生』を2、3年続けたい。それと並行して、プチ小説と意識の流れを流行らせたい。今から5年ほど経ったら、プチ朗読用台本の出版を考え、それから1年後くらいにはクラリネット日誌を出版したい」
「なるほど。でもそんなにうまく行くんでしょうか」
「まあ、悲観的なことは考えずに、しばらくは明るく陽気に船場君を応援しようじゃないか」
「そうですよね、そろそろ本気になってもらわないとわれわれも有名にならずに終わってしまいますからね」