プチ小説「太郎と志郎の夏休み7」
太郎と志郎が父親の実家で夏休みを過ごすようになって、1週間が経過した。毎日のように午前中は近くの川で過ごし、お昼前に帰って来て、みなで昼食を食べた。みなというのは、仕事や学校に行かない、祖母、伯父の嫁、梅男のことで、伯父は仕事に、松男、竹男は夏休みだというのに学校に行っていた。
梅男は昼食を5分で食べ終え、自分の部屋に戻っていた。太郎がお茶椀を空にすると、祖母が尋ねた。
「ご膳は?いかが」
祖母がにこにこ笑うので、太郎はいつも、じゃあ、半分だけくださいと言ってしまうのだが、味噌汁と漬物だけで、大きめの茶碗に一杯半のごはんというのはきつかった。
ようやく食べ終えてテレビのある部屋に行くと、志郎がいつも祖母と一緒に見ているメロドラマを見るために、テレビの前で両足を両腕で抱き抱えて座って待っていた。
そのドラマの内容は、顔面を不治の病骨肉腫におかされたヒロインが恋人に励まされながら、残り少ない日々を生きていくという内容の話であった。祖母の反応が興味深く、太郎と志郎は祖母と一緒に昼寝をする時間だったが、そのドラマを最後まで見てから眠りについていた。昨日の内容は、ヒロインに回復の兆しが見えたので、恋人に一緒に八ヶ岳に行こうと誘われヒロインは出掛けたのだったが、急な雨に遭って二人ともずぶ濡れになって木蔭に避難したというものだった。
ドラマの最初は、病院の前で、ヒロインの父親が恋人に、なぜ君は病気の娘を雨の日に連れ出したんだと怒って言っている場面だった。いつものように祖母はそれに素早く反応した。祖母は、ヒロインの気分転換になると思ったから、連れて行ってあげたのよ。雨は最初から降っていたわけではないのよと呟いた。ヒロインの母親の導きで恋人はヒロインと面会ができることになり、祖母はほっとして、よかった、よかったと言っていたが、恋人が病室に入るとヒロインが額に汗をかいてベッドに横になり、右目には大きなガーゼを貼付していた。祖母はそれを見て悲しくなったようで、ぽろぽろと大粒の涙を流して黙ってしまった。それからすぐにドラマが終わり、二人は昼寝のためタオルケットを掛けて横になったが、太郎は家でもドラマが悲劇的結末で終わり、テレビの前で母親が大粒の涙を止め処もなく流すのを見ていたので、テレビにはそんな不思議な力があるんだなと漠然と思った。
昼寝から目覚めて、太郎はしばらくテレビを見ていたが、NHKの総合、教育以外には、朝日系の民放しかここでは放送していないようだった。そばに来た志郎は、ここでは、スーパージェッタ―だけじゃなく、ハリスの旋風、狼少年ケン、少年忍者風のフジ丸も見られないみたいだよと言った。
「まあ、ええんとちゃうん。もし全部見られたら、そればかり見て、田舎の生活ができないんとちゃうかな」
「おじさんやおばさんの話もちゃんと聞かないかもしれないね。でもテレビって、すごいなあ。おばあちゃん、テレビに夢中だったね」
「ぼくや志郎はあんなに夢中になることはないけれど、ぼくも悲しい場面では泣くこともあるし、おかしい時には大笑いすることもあるんだ。今は映画みたいに天然色じゃないけれど、いつかカラーの大画面テレビが普及するようになったら、もしかしたら誰もが、24時間手放せなくなるんじゃないかな」
「そうなの。ぼくはテレビより魚とりや虫取りがいいな」
「そうだ、虫取りを忘れていた。カブトムシやクワガタムシがここで取れるか、おばあちゃんに訊いてみようよ」