プチ小説「太郎と志郎の夏休み8」

夕食の時、志郎は兄から促されて、祖母に昆虫のことを尋ねてみた。
「ねえ、おばあちゃん、カブトムシやクワガタムシを捕まえたいよぅ。どこかにいないのかな」
「えっ、クワガタムシ?そんなの聞いたことがないねえ」
「鬼虫のことだよ。鬼虫のことを都会じゃ、クワガタムシって言うんじゃ」
「梅男、それ知っとるんなら、取ってやればええじゃろ」
「この辺りにはいないよ。たっぷり蜜が出ているクヌギの木がないと駄目なんだ.。カブトムシもクワガタムシもクヌギの木に蜜を吸いに来る時に捕まえるんだよ」
「太郎と志郎がああやって、捕まえたいと言っているんだから、何とかしてやったらどうだい。どこかに連れて行くとか」
「久米町の謙のところでは、カブトムシやクワガタムシがたくさん取れると聞いたことがある。久米町の謙のところに行ったら、場所を教えてくれるよ」
「じゃあ、明日、梅男が連れて行ってあげりゃーええがな。虫かごと補虫網を万屋で買っていきゃーいい」」
「カブトムシやクワガタムシはセミを取るみたいにはいかないんじゃ。虫かごはあったほうがいいけど、補虫網はいらない。早朝に蜜を吸いに来るところを捕まえるんだよ。そこいらのことを謙はよう知っとる」
「ソウチョウって何のこと」
「朝早くってことだよ。へえー、早朝かあ。じゃあ、前日から泊りがけでないと無理なんだね」
「梅男が言う通りなら、今年はちょっと無理じゃろう。大事な子供を二人も預かることになるし、久米は共稼ぎだし、謙にずっと二人の守をさせられるかどうか。こっちに戻る時も誰かが迎えに行かないと」
「わしも泊りがけで二人の面倒をみることはできん。堪えてくれえ」
「まあ、夕食の後、久米に電話を入れて尋ねてみるわ」

夕食後、太郎と志郎がテレビを見ていると梅男がやって来た。
「さっき謙のところに電話を入れたら、おばさんが、是非会って話がしたいと言っとった。けれど、今年は泊りがけで行くのは無理みたいじゃ。カブトムシは諦めろ。近々、わしが謙のところにお前らを日帰りで連れて行くことになるじゃろ」
「ねえ、それじゃあ、カブトムシはどうなるの」
「そうさなあ、来年になるんじゃないかな。その代わりに、明日の昼、わしがお前らに御馳走を作っちゃるけん、楽しみにしとれよ」

翌日、川から帰って来ると、梅男は台所で調理を始めた。30分ほどして、食べにきねーと梅男に呼ばれたので、太郎と志郎は台所に行った。お好み焼きのようだったが、キャベツの代わりに玉ねぎを使い、他には豚肉がわずかに入っているくらいで、青のり、鰹節、マヨネーズはかけられていなかった。それでも梅男が作ったしょうゆ味のお好み焼きは太郎と志郎には斬新でおいしく、残さずに食べたのだった。