プチ小説「太郎と志郎の夏休み12」
太郎と志郎は竹男の案内でいつも水浴びをする川に沿った道を上流へと向かったが、街頭が2、30メートルごとに立っているので、どこまで行っても天体が暗くなって観測しやすくなるということはなかった。
「山に入ったら、少しは暗くなるかもしれないけれど、かあさんが言ったように、蛇に噛まれるかもしれないから、行かないでおこう」
「お星さまの話をしてくれる」
「そうだね。天体の観測というのは大きく分けて2つに分かれる。ひとつは日々の観測というのかな。四季の移り変わりの中で天体の興味深い現象を望遠鏡などを使って観察する。最も身近なものはやはり月になるだろう。60ミリくらいの望遠鏡でもクレーターの観測はできるだろう。その次はやっぱり、惑星ということになるだろう。観測のためには、100ミリくらいの赤道儀付きの望遠鏡が必要だろう。木星の衛星と土星の環が目玉になるが、15年周期で明るくなる火星も観測していて楽しい」
「でも望遠鏡がない人は、どうするの」
「そういう人のために、もうひとつの楽しみ、天体ショーがある」
「流れ星とかのこと」
「うーん、流れ星が1つや2つではショーということにはならないだろうなあ」
「ほうき星とかかな」
「確かにそうだね。ほうき星は、彗星と言って、天文ファンが楽しみにしている天文現象だ。有名なところでは、ハレー彗星や池谷・関彗星があるけれど、めったにないというのが困るところだ。池谷さんや関さんはコメットハンターと言われている」
「コメットハンターの人は望遠鏡で天体観測をして毎晩のように彗星を捜しているんだね」
「そうだよ。それからもっと身近なところでは、部分月食、皆既月食なんてのもある」
「太陽はどうなの」
「日食のことだね。部分日食は何年かに一度あるけど、日本での皆既日食となると次は2012年だから、その頃太郎と志郎は50才を越えていることだろう」
「竹男にいちゃんは、高校に行ったら天文部に入るの」
「それはないと思うよ。観測するのは夜だし、天文学はとてもたくさんの時間が必要なんだ。観測をするにしても、雨の日や曇りの日は観測できない。ここでも空が明るいから、星の観測は難しい。望遠鏡を買ったとしても、どこに設置するかが問題だ。大きくなって自分のワゴン車が持てたら、山奥に行って、人に気兼ねすることなく星雲・星団を観察することが可能になるかもしれないけれど...」
「そうなんだね。でも天体観察が難しいのなら、何をするの」
「現実的な話になってしまうけれど、生活できて初めて趣味の話になると思うんだ。趣味は楽しみを与えてくれるけれど、収入は期待できないんじゃないかな。好きなことをして生活できるというのは理想かもしれないけど、そんな人生が送れる人はほんの一握りだろう。ぼくはそんなに自分に自信がないから、まずは大学まで進学して、大きな会社や役所で勤めて、余暇を趣味で楽しもうと考えている。この前に披露したギターにしたって、それで食って行こうなんて考えていないから。でも太郎と志郎がギターや天文のことで訊きたいことがあったら、遠慮せずにぼくに訊いてくれたらいいよ。さあ、着いた。ぼくは明日も図書館に行くから、風呂に入って寝るよ。ここでの残りの日々が楽しく過ごせるよう願っているよ。じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさーい」
これは1967年頃のお話です。