プチ小説「太郎と志郎の夏休み13」
太郎と志郎は、朝起きてからいつものように川に泳ぎに行く支度をしていたが、梅男が一向に現れないので、松男、竹男、梅男の部屋に行ってみた。竹男がいたので、梅男がどこにいるか尋ねてみた。
「ああ、梅男なら今日は朝から友人と約束があると言って出掛けたよ」
「おかしいなぁ。いつもなら、川に連れて行ってくれるんだけどなぁ」
「川って、今日はお盆だから、太郎も志郎も水に入るのは我慢しないと。ご先祖さまが、一緒に連れて帰ろうと思われたら、困るだろ」
「僕たち竹男にいちゃんの言っていることが、よくわからないよ。ご先祖様って誰のこと」
「僕もふたりにうまく説明できない気がするよ。丁度、梅男が帰って来たようだから、尋ねてみるといいよ」
太郎と志郎は自転車から降りた梅男に駆け寄った。
「梅男にいちゃん、今日は川に行かないの」
梅男は当然誰でもが知っていることを質問するのかという顔をして、しぶしぶ応えた。
「お前ら、お盆に川に入るというのがどれだけ危険なのか知らないんだな...まあ、仕方ないとも言えるが...」
「竹男にいちゃんは、ぼくはうまく説明できないけど、梅男にいちゃんに尋ねてみたらいいと言っていた」
「そうか、そこまで期待してくれているのなら、頑張ってみようかな。お前ら、ご先祖様がいつもどこにおられるかというのを知っているか」
「竹男にいちゃんも言ってたけど、ご先祖様って誰のこと」
「例えば、家のお祖母さんの夫と言うのは亡くなってこの世にいない。また太郎と志郎のお父さんの弟は小さい時に病気で亡くなったからこの世にいない。そんなふうに親戚で亡くなった人のことをご先祖様と言うんだ。ご先祖様というのは何も家だけに限らず、どこの家にもおられるんだが、そのご先祖様は普段は別の世界、天国、極楽浄土などにおられて、一斉に里帰りされるのが、お盆と言われているんだ。それでお盆には各家々でお迎えする準備をするのさ。そうしてお盆が過ぎたら、ご先祖様も別の世界に戻られる」
「で、そのご先祖様はいつ川に入られるの」
「それはないと思うけど。お盆の親戚一同や仲間が集まる機会に、たとえばお酒をたくさん飲んで遊泳して、川や海で溺れて亡くなる人が目立って多くなる。そういったことの注意をしてもらうために、お盆の頃は川に入るなと言っているんじゃないかな。実際のところは...」
「でも、お酒を飲みすぎたから、溺れるの」
「それはそう言われているだけかもしれない。実際にご先祖様が連れて帰ろうとしているのかもしれない...そのあたりはよくわからないよ」
「梅男にいちゃんはご先祖様に会ったことがあるの」
「それはないけど、火の玉なら見たことがある。火の玉や幽霊さんがご先祖様なのか、いろいろ解釈はあるだろうけど、ご先祖様を敬う心があれば、お盆に無茶なことをしようとは思わないんじゃないかな」
途中から、話を聞いていた伯父の嫁(梅男の母親)は、にっこり笑って行った。
「そうじゃ、梅男の言う通りじゃ。お盆はご先祖様を敬って、大人しくしているのがいい。じゃあ昼からご先祖様のお墓の草刈りに行こう。世話ーねえけ、梅男も一緒に行こう」
「うん、いいよ。一緒に行こう」