プチ小説「太郎と志郎の夏休み14」

昼食を終えると、梅男、梅男の母親、太郎と志郎は玄関を入ったところにあるたたきに集まった。梅男の母親が鎌2本とバケツ1個を納屋から持ってくると、先祖の墓のある近くの山へと向かった。
「ここから遠いの」
志郎を負っている梅男の母親に太郎は尋ねた。
「この道を10分ほど歩いて山道に入るんじゃ。それから5分位だけれど、長い間来ていないから、草刈りをしないと進めないかもしれないねぇ。世話ーねえけ、梅男の後に付いてりゃあいいさ」
山道に入り、しばらく行くと梅男の母親が言ったとおり、生い茂った背の高い雑草のために行く手を阻まれた。梅男が鎌で雑草を刈り取りながら10メートルほど進むと、太郎たちの先祖の墓に着いた。志郎を下すと梅男の母親は言った。
「梅男と私はしばらく草刈りをしとるから、太郎と志郎は、世話ーねえけ、ゆっくりしとれ」
梅男と母親が草刈りを15分程で終えると、梅男は線香を取り出しマッチで火を点けた。
「さあ、ここにいくつかご先祖様のお墓があるから、この線香を分けて置いてくれ。どのお墓にも行き渡るように。そうしてお線香を置く時には、きちんと手を合わせるんじゃ」
太郎と志郎が順番にご先祖様に手を合わせて線香が無くなってしまうと、梅男の母親が言った。
「太郎と志郎が来てくれたんで、ご先祖さんたちもさぞや喜んどることじゃろう。太郎も志郎も、世話ーねえけ、また、来ねー」
太郎と志郎は興味深くご先祖様の奥津城を見ていたが、梅男はバケツに鎌を入れ、山道を下り始めた。

山道の入口に民家があって、太郎たちが通りかかると、そこの家人から梅男の母親に声が掛かった。
「おお、その男の子たちはこのあたりの子じゃねーな」
「そうじゃ、大阪から来とるんじゃ。先月から来とるんじゃが、もうじき帰ることになろう」
「どうじゃ、田舎の生活は退屈じゃろう。友人もおらんし」
太郎は最初は知らないおばさんの前でもじもじしていたが、田舎の生活が退屈と言われ、自分の意見を言いたくなった。
「僕はそうは思いませんでした。川はきれいだし、親戚の人たちも手厚くもてなしてくれました。それで毎日を楽しく過ごせたんです。来年の夏休みも是非ここに来たいと思っています」
「そうそう、そうしてなぁ。また来年もご先祖様のお墓にまいってくれい。そんでわしらにもなあ、その元気な声を聞かしてくれえ」
おばさんが、にっこり笑ったので、太郎と志郎はぺこりとお辞儀をして10メートル程先を行く、梅男を追いかけた。

夕食の時に梅男の母親は、週末に父親が迎えに来る、一泊してお昼頃の急行みまさかで大阪に帰るとの連絡があったと太郎と二郎に話した。