プチ小説「青春の光76」
「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「田中君は知らないのか。船場君が本を出版するということを」
「もちろん知ってますよ。船場さんと橋本さんと私はいわば、一心同体なんですから」
「それじゃあ、11月29日に『こんにちは、ディケンズ先生』の改訂版が出版されるということだから、何かやってみようと私に提案してくれてもいいじゃないか」
「おっしゃるとおりですが、今度出版される『こんにちは、ディケンズ先生』の改訂版は大手出版社ですので、宣伝もばっちりしていただけるようですよ」
「そうなのか。それじゃあ、われわれの出る幕はないのかな」
「今のところは、静観した方がいいのかもしれません。最初から大手出版社の広報とわれわれが二手に分かれるのではなく、大手出版社の広報の微力ながらのサポートという形で宣伝活動を始めた方がよいように思います」
「この前に船場君が言っていたが、大手出版社はたくさんの人材があり、その道の専門家と言われる人がおられるから、宣伝活動についても、その方たちの方がわれわれよりもずっとたくさんの方法を知っておられるに違いない。われわれが先走って、その方たちの邪魔をすることがあってはならないと思うね」
「そうですよね。われわれはいまある大手出版社と船場さんとのよい関係が続けられるように持っていくのがいいですよね」
「先の出版では、本の帯の宣伝文句やチラシの宣伝文句まで、船場君が考えたようだ。彼は親友と宣伝文句を考えたりして結構楽しんでやったようだが、要は面白い本を求める人に船場君の本に対する興味を起こさせるかが大事で、そこらあたりのことは大手出版社の広報の担当の方の方がよりたくさんのノウハウを持っているだろうし、はるかに優れていると思う。それにわれわれが知らないような宣伝媒体によって、たくさんの人に呼び掛けてくれるかもしれない」
「そうだと思います。いろんなネットワークがあって、瞬時にたくさんの情報が多くの人に伝わるようになっていることでしょう」
「船場君は、第1巻を出版してすぐに関東地方の大きな書店を40軒ほど回ったみたいだが、ほとんど相手にされなかったようだ。でも今度は大手出版社の広報の方が訪問するわけだから、耳を傾けてくださることだろう」
「船場さんがいろいろなところに足を運んだことは無駄になっていないと思います。公立図書館は代行発送ではなかなか受け入れてもらえないので、足を運んで直接担当者の方に受け入れを依頼するようになったと船場さんは言われていました」
「そうして少しずつ公立図書館に受け入れられたことは自信に繋がったと言っていたなあ」
「書店ではジュンク堂の大阪支店さんが文芸書の棚にずっと置いてくださっているようですよ」
「2巻とも置いてくださっているのかな」
「そうですよ。船場さんは、どこかで感謝の気持ちを表せたらと言っていたので、この場を借りて、ありがとうございましたと言っておきましょう」
「本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします」
「それではしばらくは、ジュンク堂大阪支店さんのように船場さんの本をたくさんの書店が取り扱ってくださるようにお祈りすることにしましょう」
「そうだな、われわれの力は微力ではあるが、これからも船場君のために頑張ることにしよう」