プチ小説「青春の光77」

「は、橋本さん、いよいよですね」
「そうだ、いよいよわしも...」
「わしも...何ですか」
「わしも喜寿(77才)じゃ」
「そうでしたか。ぼくは橋本さんは数えで70才になるから、古希だと思っていました」
「そうなのか。勘違いしとったよ」
「因みに80才は傘寿、88才は米寿、90才は卒寿でそれぞれ略字などを分解したものです。でも、ぼくが言った、「もうすぐ」はこのことではありません」
「いやあ、すまんすまあん。忘れとったよ」
「わかってもらえたんですね」
「もちろんさ。船場君のことだろ」
「そうです」
「そうだった。クラリネットの発表会のことだろ、1月18日(金)の夜に発表会があるから、あと2ヶ月半しかない。そんな短い期間に2曲を仕上げないといけないんだから、大変だ...。違ったかな」
「それも違います。今月のことですよ」
「ようやくわかったよ。船場くんの今月することと言ったら、ジョギングの再開だろ」
「ジョギングですか」
「そうさ、船場君はお盆を過ぎた頃から、体調があまり良くなかったものだから、外出せずに食べてばかりいた。このままではあい物のズボンが穿けないと考えて、10月末まで夏物のズボンを穿いて、半そでシャツでいた。それで10月の後半は腿上げ(筋トレ)に励んで、3キロほど落としたが、まだまだだ。それでジョギングを再開するようだ」
「いや、そうじゃないです。何でわかってくれないのかな」
「そうだ船場君の話題と言えば、最近は鳴りを潜めていたが、B級グルメ探訪を再開するようだ。「たこちゃんのグルメリポート」としてホームページに掲載するようだ」
「いやーん」
「ど、どうしたんだ。おかまのような声を出して」
「だって、普通の反応だったら、この出口が見つからない会話がいつまでも続くんじゃないかと心配になったからです」
「そうか、わかったよ。わしも気付くべきだったんだ。時間を取らせて申し訳なかった」
「いえいえ」
「そうさ、いよいよ」
「いよいよ」
「船場君は今年まだ一度も行っていない紅葉狩りに行くと言っていた」
「いやーん、いやーん」
「でも、それよりもっと大事なのは、11月29日の『こんにちは、ディケンズ先生 改訂版』の発売かな。発売当日からインターネットで購入可能ということだから、わしもチェックしようと考えておる」
「それでいいんです」