プチ小説「青春の光78」

「は、橋本さん、どうかされたのですか。うれしそうな顔をされて」
「そりゃあ、そうさ。田中君も知っているだろう。船場君の著書『こんにちは、ディケンズ先生 改訂版』が、幻冬舎ルネッサンス新社から出版されたことを。大手出版社だから、今まで以上に本屋さんで目にすることが多くなるだろう。私たちも応援のし甲斐があるというものだ」」
「もちろん、船場さんと橋本さんと私は一心同体なんですから、知らないことはないです。でも本屋さんで目にすることが多くなるかどうかはわかりませんよ」
「いや、私は見たんだ。田中君はジュンク堂大阪支店で船場君の本が陳列されていたのを覚えているだろ」
「ええ、1巻と2巻の両方を陳列されていたのは、ジュンク堂の大阪支店さんだけだったのは、覚えていますよ」
「私は11月30日、つまり、船場君の新刊が出版されて翌日のことだが、ジュンク堂大阪支店さんに見に行ったんだよ」
「そうですか。それでどうでした」
「『こんにちは、ディケンズ先生 改訂版』が表紙がわかるようにして3冊重ねられて置かれていた。そういうことだから、他の本屋さんでも目に付くところに置いてもらえるんじゃないかな」
「それはよかったですね。ところで今まで並べられていた1巻と2巻はどうなったのでしょう」
「どちらも、書店の店頭から消えたが、2巻の改訂版も来年中には出版されるだろう」
「改訂版とのことですが、どんなところが変わったのでしょう」
「まず、今までは、わたしと私、ぼくと僕が混在していたが、わたしとぼくに統一した。そのほか同じ言葉でひらかな表記と漢字表記が混在しているのを統一した。また紛らわしい表現を改めた。その上で、表紙のデザインをより親しんでいただけるようなものに変更した。表紙の絵が大きくなって明るい感じになったし、宣伝文もプロの方が考えたので、書店で手に取られたら、興味を持たれることだろう」
「船場さんは、出版されてから、何か宣伝活動をされたんでしょうか」
「もちろんさ。昨日は、住所地の高槻市の図書館と大阪市立中央図書館に本を寄贈した。それから久しぶりに母校の立命館大学に行ったようだ。本を寄贈するために行ったんだが、3年前に行った時に図書館があったところが、広場になり、体育館があったところに図書館ができた。船場君は西門を入って学生会館の横を通って図書館に行くんだが、図書館がなくなっていたんでびっくりしたと言っていた」
「新しい図書館はどうだったんですか」
「前よりずっと広くなった。本を閲覧するための机が並べられているだけでなく、いろんな設備があるようだったが、そこまで調べている時間がなかったと言っていた」
「でも、船場さんが大学生の時に利用されておられた図書館がなくなったというのは...」
「そう言えば、『こんにちは、ディケンズ先生』の最初のところで、主人公の小川とディケンズが出会うのだが、その舞台となる図書館がなくなってしまったということになるなぁ」
「でも船場さんは前向きな人だから、そんなことは気にされずに次のことを考えておられるでしょう」
「そうだ。船場君は、来年中には、『こんにちは、ディケンズ先生2 改訂版』を出版すると意気込んでいた。前の図書館にしても、今から3年前までにその図書館を利用した人が船場君の本を読めば懐かしく思い出すことになるだろう。歴史的な建築物でない限りは、いつか別れの日がやってくる。でもそれを大切に利用した人の心の中では、いつまでも生き続けるもんなんだよ」
「そうですよね。船場さんの本を読んで、図書館のことを懐かしく思い出す人がいたら、いいですよね」