プチ小説「友人の下宿で16」

「本日もお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。今回は、みんなでレコードを持ち寄ってという
 企画です。われわれは高月さんの日頃からのご指導で、かなりクラシック音楽に興味を持つようになり、
 自分で中古レコード店でレコードを漁るようになりました。それに目を付けられた高月さんは、最近の
 ネタ不足もあり、たまには他力本願でレコードコンサートをしてみようと思われたのでした。もちろん
 選曲は高月さんがされましたし、解説もつけていただけるということなので、お楽しみに。それでは
 高月さん、張り切ってどうぞ」
「本日は、皆さんの購入されたレコードを調べ、その中でみんなで楽しめるような曲を独断で選ばせて
 いただきました。みなさん、面白い、興味深いレコードをたくさん持たれているので、選曲に迷いましたが、
 今日は4枚聞いていただこうと思います。まずは、私も大好きでいつかはお聴きいただきたいと思って来た曲
 です。チャイコフスキーの交響曲第5番です。この曲の極め付きの演奏である、ストコフスキー指揮ニュー
 フィルハーモニア管弦楽団の演奏でお聴き下さい。これは名取君のレコードです」

「次にお聴きいただくのは、百田君が大好きな曲をお聴きいただきます。よく「ハルサイ」と略される曲ですが、
 私は最初、「ハクサイ」とよく間違えたものでした。ストラヴィンスキーの「春の祭典」のことですが、
 この曲は一時、オーディオチェック用のレコードとしてもてはやされた時代がありました。独特の楽器の音、
 切れ味のよいリズムなど私も大好きなのですが、本日は、マイケル・ティルスン・トーマス指揮ボストン
 交響楽団の演奏でお聴き下さい」

「今度は、もう一度チャイコフスキーをお聴きいただきます。交響曲第1番「冬の日の幻想」をハンス・スワ
 ロフスキー指揮ウィーン・フィルの演奏でお聴き下さい。チャイコフスキーの若い頃の作品で、美しい旋律が 
 次から次へと出て来ます。これは安城のリクエストで私のレコードをお聴きいただきます」

「最後に面白いレコードをお聴きいただきましょう。ドーナツ盤の両面に、リストの「前奏曲」が入ったもの
 です。フルトヴェングラーがウィーン・フィルを指揮した演奏です。これは野山君が提供してくれました」

「百田、どうだった」
「きょうは、オリジナルメンバーだけだったので、ゆったり聴けたね。高月さんにお願いして、レコードを
 借りることにしたんだ。高月さんの解説が聞けないのは物足りないという友人もいるけど、10人で聴いていて
 床が抜けたら、安城に迷惑をかけることになるし...」