プチ小説「いちびりのおっさんのぷち話 二番煎じ編」

わしはこれといった取り得のない人間なんやけど、地道に仕事をしとるちゅーのを上司が評価してくれて、いろんなチャンスをもろうとる。礼儀作法を指導する部署に移ってからもう10年以上経つけど、今でも社長が、いちびりさんはいつも頑張っとるなちゅーて励ましてくれるんや。ある日、社長室に来てくれちゅーて、上司から言われた時には、異動かなと思うて当惑したんやが、そやなかった。わしの上司が、何年か前にわしの講演したのが好評で、特に最後の手品が良かったちゅーて社員から言われとる。もういっぺんあんなおもろーい、ためになる講演してもらえんかと言いよった。この前の講演は船場の台本をそのまま読んだだけやったから、今度も同じやり方でええかわからんかったんで、社長、どんな話をしたらええか、言うてもらえまへんかちゅーたら、社長は、そら、君、社会の窓を開くのも大切やけど、みんなが来てよかったな思うんがええと思うよ。いちびりさんらしいユーモアで味付けしてちゅーてくれはった。上司も些事にこだわらんとどばっーと思いっきりやったら、ええ結果が出るんとちゃうちゅーてくれた。わしは早速船場に相談したんやが、船場は、にいさん、それは光栄なことで、よかったですね。ところで台本は書かせていただきますが、前回は偶然がいろいろ重なって、その結果、面白い講演になったちゅーことなんです。台本以外に決めていたのは、最後の手品くらいです。にいさんの社会の窓が開かれたのもにいさんのひらめきで面白い話になったのも台本にはないことですと言いよった。わしは上司からどばーっと思い切りやったらええでーと言われたから、その線で行こうと思うんやが、どない思うちゅーたら、船場は、公の場を与えられたのですから、そこではにいさんのギャグの発表会になってはいけません。社会の窓という言葉を使って挨拶が大切なことを語り、そこここにユーモアを取り入れて、聞いてよかったなと思わせればいいんです、そうか何かしょーもない気がするけど、お前の言うことは正しいと思うわ。で、当日は、チャックは開けといたほうがええんかちゅーたったら、船場は、それは大きな問題ではありませんちゅーて、回答を避けよった。講演の当日は、会場にオーディエンスが入りきらんで、食堂でも聴講できるよう演題の真ん前にカメラを設置しよった。その横に社長と上司が陣取って、講演は始まった。わしはわざとらしくチャックを開くのはやめにした。その代わり、社会の窓は今は開いていませんが、いつか開いた状態でお会いすることがあるかもしれません。そんな時は優しく、あら、開いてますよ、ほほほ、とか、まあ、お元気ですねとさりげなく声を掛けてくださいと5分ごとに話すことにした。これが大いに受けて、社長は、ははははははと声を出して笑うし、上司は、もういっぺん言うてくれと言いよった。社会の窓を開くためにはいつもにこにこしていることが大切です。社会の窓が開いているのを知らずに相手をにこにこさせるのもいいですが、そら、挨拶してお互いに気いよう一日を始めるのがもっとええんとちゃうちゅーて講演を終えたら、ものすごい拍手が沸き起こりよった。わしはそれに応えて、前の講演と同じように船場にシャツを引っ張ってもろうて、くす玉を割ったんやけど、それを見て社長は、それは二番煎じやから、やらんほうがよかったと言われた。それでわしは、わしは元気やでーちゅーて社長の度肝を抜いたった。そしたら社長は、それは新しいからとてもよかったちゅーて講演を終えたんやった。