プチ小説「青春の光79」

「は、橋本さん、大晦日だというのに何をされているのですか」
「田中君こそ、大掃除とか家の手伝いをしないでいいのか」
「年末のこういう時こそ、船場さんの『こんにちは、ディケンズ先生 改訂版』の宣伝には持って来いと考えたんです」
「それでこの梅田の紀伊國屋書店前にきたんだね。その籠には何が入っているんだい」
「これはぼくが10年かかって収集した。ポケットティッシュがはいっているんです。パチンコ屋、マンション販売、インターネットカフェ、飲食店、タクシー会社などいろいろなのがあります」
「で、それをどうするのかな」
「ここにぼくが作成した、宣伝用のチラシがあります。これだけ配るだけでは年末で忙しくしている人に手渡すのは無理かと思って、付加価値を付けたんです」
「なるほど、それならチラシを受け取ってもらえるかもしれないね。そうだ、どうせなら、はがきの半分くらいの大きさのちっちゃなチラシもティッシュに挟んだらどうだい」
「なるほど、そうすれば宣伝効果の二段ロケットやーーーという感じですね」
「ところで田中君が作成したチラシにはどんなことが書いてあるのかな」
「『こんにちは、ディケンズ先生 改訂版』全国書店で好評発売中 これを読めば文豪ディケンズが身近に 主人公小川は大学生活の初日にディケンズの著書を枕に図書館で居眠りをしてしまう。その夢に現れたのが、文豪ディケンズ。夢の中でディケンズは自著のファンに優しく語り掛ける」
「なかなかいいじゃないか。でも、本当に全国の書店で好評発売中なのかな。全国の書店で取り扱っていますではないのかな」
「ぼくもそう思っていたのですが、実際、約300冊が全国の大きな書店に入っています。ただ棚に陳列されているかどうかはわかりませんが」
「と言うと」
「引き出しや倉庫に置かれているということも考えられます。でも本に買いに来られた方が、『こんにちは、ディケンズ先生 改訂版』を買いたいと言われればすぐに購入できるようになっています」
「やはり、大きな出版社はそういうことができるんだね。大きな書店で、目を引く表紙絵の宣伝文句も優れた本が置かれてあると1000冊もすぐに売れることだろう。そうすれば増刷になって...」
「すぐに増刷というわけにはいかないようです」
「それはなぜかな」
「増刷となると、自費出版ではなく出版社負担になりますから、幻冬舎さんが有望な図書であるということを認めなければ、話は進められないということになります」
「でも船場君は、ディケンズ・フェロウシップの秋季総会で発表したり、たくさんの大学図書館に『こんにちは、ディケンズ先生』『こんにちは、ディケンズ先生2』を受け入れてもらっている。たくさんの人に認めてもらっている図書だと思うんだが」
「ぼくもそう思いますが、売れたらすぐに増刷というわけではないということが言いたかったんです」
「よし、わかった。それならわれわれは今まで通り、地道にがんばることにしよう。じゃあ、今から、金粉を全身に塗るから手伝ってくれないか」
「ええいいですよ。ぼくも地道にティッシュじゃなくて、チラシを配ることにします」