プチ小説「青春の光80」
「は、橋本さん、どうかされたのですか」
「いや、どうもしないさ。われわれは船場君の応援隊で彼がアクションを起こしてくれないことにはお手上げだよ」
「でも最近船場さんは新しいプチ小説のネタ探しのために休日を使われているようですよ」
「ほう、何という題の小説かな」
「たこちゃんのグルメ・リポートというシリーズで今日、13作目を書かれたようです。
「内容はどんなのかな」
「船場さんの食に対するこだわりというのかな。それから船場さんのお気に入りのお店も紹介されています」
「でも船場君はずっと貧乏で、これからもずっと貧乏だろうから、グルメな食事にありつけることは永遠にないと思っていたんだが」
「だから断っているじゃないですか、「たこちゃんの」と。たこちゃんは船場さんの小学生の頃のニックネームですが、船場さんなりのグルメ・リポートを書かれているのだと思います。だから取り上げている料理なども、ギョーザ、エビイモ、キムチ、カレー、ジンギスカン、和菓子、うどん、バンバーグ、スパゲッティ、オムそば、おでん、ピザ、豆腐料理と庶民的です」
「そりゃー、船場君は高級焼肉を食べたり、銀座で寿司を食べたり、ホテルでフランス料理を食べたりするのは一生無理だろうから、そんなグルメ・リポートしか書けないだろう。週末の外食は王将か松屋なんだから」
「でも、きのうはそのグルメ・リポートを書くために奮発されたようで,、正午過ぎにMサイズのピザを3枚食べたと思ったら、午後5時頃に湯豆腐セットを食べたというから、驚きです。今度はフードファイターになるつもりなんでしょうか」
「そりゃー、スポンサーがついてくれても、彼はしないだろう」
「なぜですか」
「詳しくは言わないが、苦手な食べ物が多々あるからさ」
「それでも好きな食べ物の梯子ができるなんて羨ましいなあ。幸せだったでしょうね」
「そりゃそうだろう。彼は幸福で腹を膨らませて、京都の四条通を西へと歩いていたようだが...」
「何か起きたのですか」
「冬の寒い折だったので、上着のボタン3つをすべて掛けていた。さっきも言ったが、わずかの時間に2回もお腹一杯食べたので、お腹は布袋さんのようだった。そこにスギ花粉を多く含んだ北風が船場君の鼻のあたりで旋回したんだ」
「ええーっ、それは大変なことになる」
「いや、今からそんなことを後悔しても遅いんだ...」
「で、どうなったんですか」
「船場君のくしゃみは凄いものだったようだ。上着のボタンは3つともぶち切れてはやぶさ2の弾丸が小惑星りゅうぐうに打ち込まれた時のように地面に突き刺さったと聞いている」
「そんなことができるんだったら、万国びっくりショーに出たらいいと思います」
「私も船場君はまず手段を選ばずに顔を売るのが大事だと思うんだが、演芸ではなく、『こんにちは、ディケンズ先生 復刻版』で有名になりたいようだ。今のところわれわれができるのは、彼の本が売れるようにお祈りをすることしかないようだ」
「そうですね。船場さんはテレビ向きの顔じゃないし、しゃべりも下手ですしね」
「そうさ、その通り。本が売れなければ、船場弘章のやったことは残念ながら何も残らないということさ」