プチ小説「たこちゃんのグルメ・リポート 最終回」
ぼく、たこちゃん。美味しい食べ物に目がない50代のおじさんなんだ。ぼくが育ち盛りの頃、母はクリームシチューをよく作ってくれたんだけど、肉が鶏肉だったか、豚肉だったかよく覚えていない。最近になって、たまにシチューを自分で作るようになったけど、クリームシチューの味では物足りなくて、角切りの牛肉でビーフシチューを調理してしまう。最初のうちは肉をとろけるまで煮込んで、ハインツのデミグラスソースで味付けしてなんて考えたけど、カレーのように煮込んで、ハウスのシチューのルーで味付けしても十分美味しいから、冬の寒い時なんかまた自分でビーフシチューを作ってみようと思っている。そういうことでビーフシチューをレストランで食べると高いし自分で作るのが一番いいんだけど、それではグルメ・リポートにならないから、浅草の有名な洋食屋で食べてみようと思ったんだ。なぜ浅草にしたかと言うと、以前、築地市場という店で昼食を食べたんだけど手頃な値段で新鮮なお刺身を堪能できた。またもんじゃ焼きも美味しかった。ということで浅草に行くことに決めたんだ。インターネットで調べて、ヨシカミ、ぱいち、グリル佐久良の3つに絞って、昼休みがなく、席数が多い、ヨシカミに決めたんだ。土曜日の午後3時頃、地下鉄浅草駅で下車して浅草演芸ホール近くのヨシカミを目指したんだった。店の前に順番待ちの3、4人の人がいたけど、ぼくは一人だったんで、待たずに席に着くことができた。予定していた。ビーフシチューとロールパン(2個)を頼んで、出てくるのを待った。カウンター席に座ったんだけど、そのすぐ前でコックさんが料理していた。目の前でステーキを焼く火炎が上がった時には、手を叩いて何か叫びそうになったけど、恥ずかしいからやめたんだ。周りにはオムライスとスパゲッティなんかを頼む人もいたから、いつもステーキを食べてる大金持ちばかりが来られる高級洋食店ではないのかなと思った。それほど待たないで注文した料理は出てきたけど、とても美味しかった。シチューはロールパンに付けて食べたけど、たっぷり付けて、4個食べられたから、十分にお腹も満たされた。2年ほど前に上野の精養軒でビーフシチューを食べた時は、写真を撮ることばかりに頭が行って味がどうだったか覚えていないけど、ヨシカミのビーフシチューは大きな牛肉の塊がとろけるまで煮込んであるので本当に美味しかった。精養軒ではライスを頼んだけど、ぼくはこの時にパンの方がずっといいことに気が付いた。
そういうわけでこのグルメ・リポートは今回で終わりになるんだけど、一番大きな理由はぼくが4月の初めに50代を卒業するということなんだ。それからここ5ヶ月ほどの間に有名なレストランでボリュームのある料理をいただいたということで、着ぐるみを一枚着たような体形になってしまったということもその理由なんだ。以前なら、腹筋や腿上げをすることでお腹はへっこんでいたけれど、最近は駄目なんだ。それに4、5日前に風邪を引いて近くの開業医さんにかかったところ、肺はきれいだけど、お腹のぜい肉ちゃん(先生はこんな言い方はしなかったけど)が肺を圧迫しているから、階段を登ったりしたら息が上がるんじゃないのと言われたんだ。ぼくが、そのとおりですと言うと先生は、例えば、夕ご飯は炭水化物を取らないようにするというのがいいのかもしれませんよと言われたのもある。もう60才になるし引き続き同じところで働くんだから、少しは節制をしないといけないなと思うんだ。でも、いつか「新たこちゃんのグルメ・リポート」だとか言って、戻ってくるかもしれないから、その時はよろしくね。じゃあ、バイバイ。